1年納めの11月場所が、いよいよ2日後の8日に幕を開ける。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、福岡から東京・両国国技館への開催地変更や、増員したとは言え、観客数にはまだまだ制限があるなど通常開催が待ち遠しい日が続く。そんな中、今回がもしも通常開催ならきっと連日の満員御礼-、と思うほど、今場所は役者ぞろいの本場所になると予想している。

まずは新大関の正代(時津風)。今年は朝乃山に続いて、2人目の新大関誕生となった。これまでは相撲内容よりもネガティブな発言が目立っていたが、秋場所では得意のもろ差しを武器にした力強い相撲を連発して初優勝。29歳の誕生日を迎えた5日には、初優勝した際に賜杯を手にした時の写真がプリントされた誕生日ケーキを後援会関係者からもらったという。「あまり20代最後は意識しないように、できるだけ若々しい相撲を取れたらと思う」と新大関の勢いそのままに本場所に臨む。通算45勝でトップの年間最多勝も懸かっている。

三役復帰を果たした、2人の大関経験者にも注目が集まる。内臓疾患や両膝の負傷などにより、一時は番付を序二段まで落とした照ノ富士(28=伊勢ケ浜)は「そんなに長く相撲が取れるわけではない。爆弾抱えてやっているから、いつ何が起こるか分からない」と話すが、悲愴(ひそう)感ではない。むしろ「ここから3場所が大事。チャンスがあればつかみたい」と、大関昇進を見据える。

左肘の靱帯(じんたい)断裂や腰痛などの度重なるケガに苦しんだ高安(30=田子ノ浦)も、番付を三役まで戻した。部屋付き親方の荒磯親方(元横綱稀勢の里)との三番稽古で調整を進めたといい「とても復調している。とてもいい稽古ができている」と充実ぶりをのぞかせる。来年には妻で演歌歌手の杜このみとの間に、待望の第1子が誕生予定。「また一回りも二回りも成長して、しっかり結果を出して、また審判の皆さんに評価されるような相撲を取りたい」と、家族の力を糧にこちらも大関復帰を見据える。

前頭筆頭の霧馬山(24=陸奥)や若隆景(25=荒汐)、東前頭3枚目輝(26=高田川)、西前頭4枚目翔猿(28=追手風)、西前頭5枚目琴勝峰(21=佐渡ケ嶽)と、前頭上位には勢いのある若手らが自己最高位で名を連ねる。他にも新関脇の隆の勝(25=千賀ノ浦)もいるなど、毎場所押し寄せてくるのを感じる世代交代の波が、今場所もより一層強まりそうだ。

十両の土俵も注目だ。まずは業師、東十両13枚目宇良(28=木瀬)が十両に復帰。右膝の靱帯と左膝の半月板を損傷するなどして、一時は番付を序二段にまで落としたがはい上がってきた。土俵際での驚異的な粘りが武器な一方、再び両膝を負傷するリスクは高い。しかし、宇良は「居反りもバンバン使っていきたい。封印はしてませんよ。バンバン出しますよ」とやる気満々。トレードマークのピンク色のまわし姿で15日間戦う。

大関経験者の西十両3枚目琴奨菊(佐渡ケ嶽)は、05年春場所以来15年ぶりに十両の土俵に上がる。36歳のベテランは大なり小なり、多くのケガを抱えるが言い訳にはしない。むしろ「勝てば上がれる世界。ネガティブにとらえがちだけど、自分としてはポジティブなところがたくさんある。まだまだ力を出してないぞというところ」と幕内返り咲きを目指す。

1年を締めくくるのにふさわしい程に、今場所も話題が豊富だ。相変わらずリモート取材が続くが、できるだけ多くの声を拾い、発進していきたいと思う。【佐々木隆史】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)