<大相撲秋場所>◇千秋楽◇25日◇東京・両国国技館

現役最年長関取の東前頭3枚目玉鷲(片男波)が、37歳10カ月で昭和以降最年長優勝を果たした。本割で3敗で追う西前頭4枚目の高安(32=田子ノ浦)との直接対決を制し、13勝2敗。19年初場所以来2度目の賜杯を手にした。

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関取衆の中でも1、2を争う100キロ近い握力で、グッと首元を絞める。玉鷲の代名詞の1つ、のど輪は他の力士とはひと味違う。首を絞めるのが目的ではなく、相手の上体を起こす、持ち上げる中での1つの動きなので反則ではない。ただ、大きな手でギュッと首をつかまれた後、上に持ち上げられた相手は本能的に身の危険を感じる。のど輪を外すことに全ての意識が向くため、その時点で玉鷲が主導権を握ることになる。

「本能的に身の危険を感じる」と断定して書いたのは、実は体験したことがあるからだ。初優勝した直後の19年春場所前、朝稽古の取材に行き、のど輪について聞いたことがあった。すると玉鷲が突然「じゃあ、やってみましょうか」と言い出した。「えっ!?」。稽古場から1歩出た、車通りが少ない大阪市内の住宅街。道路脇で、大男と向き合うことになってしまった。

「軽くだから大丈夫。いきますよ」。笑顔で話していたが、首をギュッとつかまれ呼吸が止まると、直後に遊園地の絶叫系アトラクション? のように急上昇。大食漢だが細身で、70キロ弱の体は軽々と持ち上げられた。正確には一瞬で2度も身の危険を感じる。もちろん「軽く」なので無事だが、ダチョウ倶楽部をまねて「殺す気か!」と言うと、玉鷲はケタケタと大笑いしていた。衰え知らず。まだまだ先の話だろうが、明るく楽しく技術を伝える才能を指導者としても発揮してほしいと感じた。【元相撲担当=高田文太】