強い正代(33=時津風)が帰ってきた。大関経験者ながら、今場所は東前頭11枚目で臨んでいたが、実に5年8カ月ぶり、関取としては自己最速に並ぶ9日目の勝ち越し。西前頭4枚目で13勝し、優勝次点だった大関昇進前以来の好成績で、全勝の横綱豊昇龍を1差で追う、優勝争いに名乗りを上げた。
東前頭15枚目の“くせ者”翔猿に、立ち合いは踏み込みすぎずに胸から当たった。立ち合いで変化しないとみるや、落ち着いて相手の右をたぐり、バランスを崩して右をのぞかせ、一気に前に出た。最後は両手で相手の胸を押して土俵下まで押し出した。取組後は「バタついていた」と、快勝とはならずに反省の弁。ただ「右がのぞいてからは、しっかりと寄せられた。そこはよかった」と、うなずいた。
22年九州場所まで13場所務めた「大関」の看板は、重かったと述懐した。この日の取組後、大関のころと現在の心境の違いを問われ、本音を隠さずに話した。
正代 プレッシャーが違う。今はノビノビやらせてもらっている。それがいい。大関の時は根本的に充実していなかった。勝っても「明日はどうなるんだろう」と。今は勝ったら、次の日のことを考えなくていい。大関時代は勝ったら、ただ安心というか、ホッとしていた。「何とか乗りきった」という感じ。モチベーションの持っていき方が、すごい難しかった。大関時代は「負けたらヤバい」と、悪い方に考えがいっていた。メンタルが強い方じゃないので、なかなかしんどかった。しんどかったと言っちゃ、いけないかもしれないけど。今は充実して取れている。
元来がプラス思考ではないと自認する。熊本県出身の正代にとって、来場所は特別な九州場所。仮に今場所、大きく負け越していたら、十両転落の可能性もあった。その可能性が脳裏をよぎったことは「やっぱり、ありましたよ」と打ち明けた。だからこそ「早く勝ち越して安心したかった」と、本音が止まらなかった。
九州場所に弾みをつける意味でも、今後は優勝争いが期待される。その優勝争いについては「もう少し星が伸びたら。意識していないし、意識したくない。どうしても意識すると、自分らしさが出なくなるので」と、冷静に自己分析しながら語った。先を見据えすぎず、あくまでも目の前の一番に集中-。無欲で取り切った先に、2度目の賜杯が近づいていく。【高田文太】

