ハリウッドで映画の特殊メイクやキャラクターのデザインを手がける造形家で彫刻家の片桐裕司が、初の長編映画監督を務めたサスペンスホラー「ゲヘナ~死の生ける場所~」が30日から公開されるのを前に、ロサンゼルスで話を聞きました。

 「パシフィック・リム」(12年)や「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉」(11年)など数多くの映画や、98年にエミー賞を受賞した「Xファイル」等ハリウッドの最前線でトップクリエーターとして活躍してきた経験を生かし、低予算ながら豪華キャストと一流スタッフによるハリウッドクオリティーの作品となった本作は、サイパン島を舞台に男女5人が洞窟に閉じ込められる密室劇。謎の呪術師に守られた旧日本軍の秘密基地で太古から続く呪いに翻弄され、恐ろしい結末へと導かれていくストーリーです。

 「子供の頃から映画が大好きで、中学生の時に特殊メイクに興味を持ち、本場のアメリカでやってみたいと18歳だった1990年に渡米し、SFXアーティストのストリーミング・マッド・ジョージのスタジオで働きながら造形を学びました。スティーブン・スピルバーグ監督に憧れて映画監督になりたいと思ったのは20歳の頃です。本格的に映画製作を始めたのは2003年で、ドキュメンタリーや短編映画を手掛け、次は長編と決めて脚本を書き始めてから撮影にこぎつけるまで実に7年かかりました。大変なことばかりでしたが、ずっと頭の中で思い描いていたことが目の前にあった時は嬉しかったですね」

 クラウドファンディングの「キックスターター」で製作費を募り、独立系長編映画としては異例の25万ドルの資金を集めたことで話題に。

 「ハリウッドで自分の映画を作るという夢を長年持ち、そのために行動してきました。時間はかかりましたが、実現するためには行動することです。クラウドファンディングで資金を集めるには、自分の今までのキャリアをフルに生かしたものでないと集まらないと思い、ホラーというジャンルを選びました。アメリカ人が主役でアメリカを舞台にした作品を限られた予算とロケーションで作ること。さらにアメリカ人の監督にはできない作品にしたいという思いから日本が絡むストーリーを考え、日本の秘密基地がサイパンにあっても面白いのではないかという発想で脚本を書き始めました。予算がないので劇中のキャラクターなども自分で作りました」

 今年のアカデミー賞で作品賞に輝いた「シェイプ・オブ・ウォーター」で水中生物を演じた俳優ダグ・ジョーンズが不気味な老人役で出演している他、「エイリアン2」のビショップ役で知られるランス・ヘンリクセンもカメオ出演。スタッフ陣も「ジュラシックパーク」や「アバター」などのキャラクターデザインで知られるジョーイ・オロスコや初代プレデターを手掛けたスティーブ・ワン、「ファンタスティックビーストと魔法使いの旅」などでコンセプトアートを手掛けた田島光二ら一流のメンバーが揃っています。

 「ジョーンズは仕事を通じて以前から知っていたので最初の段階で「出て欲しい」とオファーをしたら快く引き受けてくれました。ヘンリクセンもすごく良い人で、ダウンタウンの撮影現場まで2時間かけて一人で来て、お金いらないからと言ってくれて…」

 現在はフリーランスとして来年公開予定の「キャプテン・マーベル」のエイリアンや「アバター」などの大作にもクリエーターとして関わっている他、日本全国で彫刻セミナーを開催するなどマルチな活躍を見せています。

 「本気になれるのはやっぱり映画監督だと感じているので、将来的には監督の仕事をメインにしたいと思っていますが、当面は今の仕事を継続しながらの二足のわらじですね。次回作はSF映画の監督を務めることが決まっていますし、自分で脚本を書いたホラー作品もこれから本格始動させるつもりでいます」

 「ゲヘナ~死の生ける場所~」は、30日から1週間限定で渋谷ユーロライブで公開されます。

 「期間中は毎日異なるゲストによるトークショーも行われるので、ぜひ楽しみに来て下さい。ホラーですが、ストーリー重視の作品なので、とても面白いと思います。結末の謎ときで驚いてもらえたら嬉しいですね」。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)