フランスの国民的歌手であるシャルル・アズナヴール(94)が、9月17日に東京・NHKホールで行った来日コンサートを取材した。本来は今年5月に公演の予定だったが、腕の骨折のためドクターストップがかかり、延期していた。

94歳という高齢もあって、本当に来るのか危ぶまれたが、ステージに現れたシャルルは約160センチと小柄な体ながら、エネルギッシュに歌った。休憩なしの1時間45分のステージ。会場を埋めた満員のファンも年齢層は高かったが、その1曲、1曲に手拍子をしたり大のりで、最後はスタンディングオベーションとなった。

シャルルの父はジョージア(グルジア)出身で、両親ともに移民だった。貧しさのため9歳から芸能活動を始めた。22歳の時に当時の大歌手ピアフに見いだされ、ツアーなどに同行し、歌手としてキャリアを積んだ。フランス語だけでなく、英語など5カ国語をあやつることができ、俳優としても60本以上の映画に出演している。歌の合間のトークでもフランス語と英語を使い分けながら、通訳なしで行った。

「ラ・ボエーム」「帰り来ぬ青春」「ジザベル」など世界的に大ヒットした曲を中心に20曲以上を歌った。包み込むような柔らかい歌声は、94歳とは思えないほど、張りがあり、力強かった。途中、小刻みなステップで踊る場面もあって、観客も大喜びだった。拍手が鳴りやまず、シャルルは何度も舞台袖とステージを往復したが、最後はつえをついて登場。ただ、ステージ中央に立つと、つえを高く掲げ、つえを手に持ったまま舞台袖に消えていった。「まだまだ元気だぞ」と、アピールするシャルルのプライドを感じた。

11月にシャルルにとって恩人で、恋人でもあったピアフを主人公にした舞台「ピアフ」に主演する大竹しのぶも花束をもって駆けつけた。公演チラシを手渡すと、ピアフを演じた大竹が歌っているチラシ掲載の写真を見て、シャルルは「ここのピアフがいる。君はもうピアフだよ」。ピアフを身近に知る人から、最大限のお墨付きをもらった。

シャルルは何度も来日公演を行うなど、大の親日家で、今年春には旭日小綬章を受章している。今回、「最後のコンサート」として宣伝しようとしたが、本人はそれを拒否した。またの来日コンサートに意欲を見せているという。

【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)