「国際演劇年鑑2020」から依頼された、ジャニー喜多川さんと演劇をテーマにした原稿を書き終えた。ミュージカル草創期の1965年に、ジャニーさんが育てた初代ジャニーズは、石原慎太郎氏が作・演出したミュージカル「焔のカープ」に出演した。以来、半世紀を超えて、ジャニーさんは舞台と深い関わりを持っていた。

都内でジャニーズの公演がない月はないほどで、東京グローブ座という自前の劇場も持っている。ミュージカル公演が多いが、グローブ座では9月に菊池風磨が「ハムレット」、10月は北山宏光が「THE NETHER(ネザー)」に主演するなど、ストレートプレイにも積極的に挑んでいる。

そんなジャニーズの中で、舞台にどっぷりとつかっているのが岡本健一(50)。ジャニーズでは珍しい本格ロックバンド「男闘呼組」のメンバーとして活動し、解散後も他の「ジャニーズアイドル」とは一線を画し、俳優として活躍している。今年も村上春樹原作、蜷川幸雄演出「海辺のカフカ」でパリと東京の公演に参加し、4月には「ピカソとアインシュタイン」にも主演した。現在、シアター風姿花伝という客席数100の小劇場で「終夜」という舞台に主演している。

これがすごい舞台だった。原作通りにやると、7時間にもなるが、今回はカットして上演時間は休憩を含めて3時間40分。4人の男女がひたすらしゃべりまくる、何とも重たい会話劇。岡本は母の葬儀を終えたばかりの中年男ヨンを演じるが、感情をあらわに激しくぶつかってくる妻に対して、冷静に受け止めながら、母や弟、そして娘との複雑な関係にある男の姿が浮かび上がってくる。

初舞台は19歳の時に出演した蜷川演出「唐版 滝の白糸」。今年2月、読売演劇大賞の最優秀男優賞を受賞した時のあいさつで、当時を振り返って、「稽古場に行くと、ちょっと普通でない、頭が『?』な人が集まっていて、驚いた。でもその自由さに触発され、そんな舞台人になりたくて、30年立ちます」。これまで70本以上の舞台に出演しており、今や演劇界に欠かせない俳優の1人だ。

そんな岡本がジャニーズを離れることがなかったのには理由がある。岡本のジャニーさんへの追悼コメントで明かされたのは、33年前、岡本の母親が亡くなった時の通夜の光景だった。「通夜でジャニーさんは父と代わり、朝まで徹夜してお線香とろうそくの灯を絶やさぬよう守り続けてくれた。その御恩は忘れません」。ジャニーさんとの強い絆にあった。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)