世界遺産の奈良・法隆寺が6月15日からクラウドファンディングを始めたところ、開始から8日間で1億円を突破した。法隆寺の維持管理費用は拝観料などでまかなっていたが、コロナ禍で修学旅行などの拝観者が激減したこともあって、今回のクラウドファンディングとなった。目標額は2000万円だったが、開始初日でクリアし、今は1億3000万円を超えている。

都内の寄席も、コロナ禍で厳しい状況にあったため、昨年は落語協会と落語芸術協会が中心となってクラウドファンディングを行った。目標額を上回る1億円が集まり、5つの寄席に分配された。

しかし、寄席を取り巻く厳しさは22年も変わらなかった。1946年に開業し、木造建築で昔ながらの寄席らしい雰囲気が魅力の新宿・末広亭は「存続の危機」にあるとして、5月下旬から単独でクラウドファンディングを始めている。観客が9割減になった時期もあるなど毎月赤字が続いており、昨年分配された約2000万円はつなぎにしかならず、内部留保している資金などもこのままでは尽きるため、夏までに経営破綻しそうな状況にあるという。クラウドファンディングを始めた席亭の真山由光氏は協力のお願いで、「役員の中には『無理して続けるくらいなら辞めよう』という声も出ましたが、席亭としては、お客様のためにも、芸人さんたちのためにも、なんとしても存続させて行きたい気持ちです」と訴えている。

今回の目標額は5000万円。支援金額によって千社札や招待券が返礼品として贈られるが、10口限定の最高額100万円を支援すると、年間パスポート2人分や湯のみ、Tシャツなどの数々のグッズが贈られる。期限は8月31日だが、6月末で約1700万円。目標額にはほど遠いという。法隆寺が世界遺産なら、寄席は貴重な日本遺産でもある。終戦直後の混乱の中に生まれ、76年も愛されてきた寄席の灯を消すことがあってはならないだろう。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)