「劇団俳協」という劇団がある。母体は1960年に設立された「俳協」で、正式名称は「東京俳優生活協同組合」。東京都の認可を得た日本唯一の、世界でも珍しい俳優による生協です。その俳協に所属する俳優の小林清志さんが7月30日に亡くなりました。89歳でした。

小林さんと言えば、声優として人気アニメ「ルパン三世」の次元大介、「妖怪人間ベム」のベム役、映画ではジェームズ・コバーン、トミー・リー・ジョーンズらの吹き替え、ナレーションでは「SASUKE」「ガキの使いやあらへんで!!」などの人気番組を担当し、毎日のように聞く「声」でした。

小林さんは、日大芸術学部演劇科を経て、劇団泉座に入り、俳優として舞台に立つ一方、海外戯曲の翻訳などを手がけました。泉座は中国の戯曲も取り上げるなど、当時は精力的に活動する左翼的な劇団でしたが、その後解散。小林さんも60年に俳協に創立メンバーとして参加し、生活のために声優の仕事が増えていきます。

俳優としてのプライドから声優と言われることを嫌がったそうですが、71年から50年にわたり務めた次元大介を88歳で降板した時は「ルパンは俺にとって一生ものの仕事だった。命をかけてきた。わがままを言えば90歳までやっていたかったが残念」と声優の仕事を愛するがゆえの無念さがあふれるコメントを残しています。

そういえば、「ルパン三世」の初代ルパン役の山田康雄さん、初代銭形警部役の納谷悟朗さんはともに劇団テアトル・エコーの所属でした。俳協、エコーはアニメ草創期から数多くの声優を世に送り出しました。今や「声優」は「俳優」よりも若い人が憧れる仕事です。それも小林さんたち先人たちの活躍があってこそのことでしょう。【林尚之】