先日、日本記者クラブで行われた劇作家で演出家の野田秀樹氏(67)の会見に行ってきました。

コロナ禍初期に当時の首相から演劇が「不要不急」なものとされた時の「舞台は人生そのもの。憤りに近いものを感じた」という思いや、演劇人として最後の夢の一つである、大規模で社会的にも広く認知される「国際舞台芸術祭」の構想を明かしました。その後の質疑応答では、故ジャニー喜多川氏による性加害問題で揺れるジャニーズ事務所についての質問が出ました。

ただ、この質問にはあきれました。質問者は「私はジャニーズのタレントがドラマなどあらゆる作品のレベルを下げていると思っている。ジャニーズのタレントはひどい」などと独りよがりな持論を述べて、野田氏の見解を聞いたけれど、その答えは自らの体験をもとにフェアなものでした。「ジャニーズの人間を実際に知っているけれど、一概にひどいとは思わない」と一蹴しました。ジャニーズのタレントは故蜷川幸雄氏の演出舞台をはじめ、多くの舞台に出演しているが、これまで野田氏の舞台では起用はなかった。その理由を「自分の舞台で使わなかったのは、スケジュールがひどすぎたから。とてもじゃないけど、仕事はできないと思った」と明かしました。ジャニーズの人気タレントは過密スケジュールなため、本格的な稽古前のワークショップから長い時間をかけて稽古を重ねる野田氏の演出スタイルとは合わないことが大きな理由だったのです。

野田氏は自身の舞台では映画、テレビで人気の俳優を起用してきましたが、「人気のある人は華があることが多い。必ずしも、人気があるからいけないとは考えない」とも話しました。ジャニー氏の性加害、それを見過ごしてきた事務所が批判されるのは当然ですが、ジャニーズのタレントだから、すべてを「ひどい」とするのは言い過ぎでしょう。演劇をいとも簡単に「不要不急」と切り捨てた状況と、ジャニーズなら何でもバッシングする風潮に、共通する違和感、危うさを感じます。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)