「これは日生劇場で見たい」と思った。1月18日から20日まで大阪松竹座で行われた「坂東玉三郎 はるのひととき」を見ての感想だった。玉三郎と春風亭小朝が共演した公演で、小朝が語り、玉三郎が歌う「越路吹雪物語」に、小朝の落語「芝浜」、玉三郎の地唄舞「雪」が上演された。

「越路吹雪物語」の主人公は、1980年に56歳の若さで亡くなった歌手で女優の越路吹雪さん。宝塚歌劇団出身で、退団後は歌手、女優として活躍した。「愛の讃歌」「サン・トワ・マミー」「ラスト・ダンスは私に」などのシャンソンを歌い、NHK紅白歌合戦に15回も出場した。60年代から80年まで日生劇場で浅利慶太さんの演出で「ロングリサイタル」を行った。チケットはすぐ完売する人気公演で、演劇記者になったばかりの79年、そして80年の最後のステージを見た。舞台も客席も大人の雰囲気が溢れて、若造の私にはまぶしいステージだった。越路さんの歌声が心にしみわたり、振り返ると宝物のような体験だった。

小朝は10数年前に越路さんの半生をもとにした人情噺「越路吹雪物語」を作り上げ、高座でよく演じていた。今回は小朝が泣き笑いのエピソードをテンポよく語る合間に、黒を基調とした衣装の玉三郎が越路さんの愛した「愛の讃歌」「ラビアンローズ」「愛の幕切れ」などを歌う構成で、それがとても良かった。小朝が6歳年下の夫との愛の絆、童女のような越路さんの素顔を語って、越路さんを知らない世代にもその魅力は十分に伝わり、玉三郎が歌う1曲1曲には確かなドラマの世界を感じた。

シャンソンは「3分間のドラマ」と言われるけれど、越路さんは曲ごとに異なるヒロインに成り切って、聴く者はそのドラマに引き込まれた。「越路節」とも呼ばれる女優の歌だったが、玉三郎も同じように魅力ある歌声だった。玉三郎は「ロングリサイタル」を何度も見ていて、対談するなど親交があったという。そういえば、玉三郎の歌う立ち姿は美しいけれど、ニナ・リッチのゴージャスなドレスを着た越路さんも立ち姿、歌う姿が美しい人だった。

越路さんは「ロングリサイタル」を行った日生劇場との相性も良かった。銀座のヤマハホールで行っていたリサイタルは日生劇場に移ってから人気に火が付いた。天井に2万枚のアコヤ貝を埋め込み、優雅さ、豪奢さでは日本一の日生劇場でのリサイタルは500回を超えたという。冒頭で「日生劇場で見たい」と書いたけれど、言い直したい。「これは日生劇場にふさわしい公演」と。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)

春風亭小朝(C)松竹
春風亭小朝(C)松竹