9月15日に亡くなった樹木希林さんが茶道の先生を演じた作品。味のある演技は凜(りん)として上品で、すごみがある。最後まで生を全うした希林さんの女優としての神髄に触れることができる。

エッセイストの森下典子氏が茶道教室に通う20年の日々をつづった「日日是好日 『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」が原作。希林さんは「タダモノではない」といううわさの先生「武田のおばさん」を演じた。主人公の典子(黒木華)は大学生だった20歳の春、武田先生の茶道教室に通い始める。就職の挫折、失恋、大切な人との別れ。武田先生は人生の師匠として主人公たちを導いていく。

7月末、茶道にゆかりのある京都・建仁寺で完成披露イベントが行われた。最後の公の場となった希林さんはお茶を通しての幸せについて尋ねられると「もし縁があってまた地球上に生まれてくることがあれば、今度は小さな茶室を設けて、夫と向き合って静かにお茶をたてながら人生を送りたい。そう思いました」。穏やかな表情だった。いろいろなことに気づく幸せを感じていれば、毎日が良い日。味わい深く、心に染みる作品である。【松浦隆司】

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