誰もが知る織田信長の誰も知らない、歴史上最大の政略結婚で結ばれた濃姫との30年間、「本能寺の変」の謎を、現在放送中のNHK大河ドラマ「どうする家康」の古沢良太氏がオリジナル脚本で描いた。緊迫感ある殺陣、信長と濃姫を取り巻く豪華役者陣との芝居もさることながら“夫婦”の絆に目を奪われた。

主演の木村拓哉のこれまでとひと味違う表情が印象的だ。やんちゃな16歳だった信長は天下統一のために戦国時代を駆け抜け、残忍な魔王へと変化。声の抑揚や落ち着いた動きが晩年の圧倒的存在感を示した。

うつけ者だった信長を育て上げたのは綾瀬はるか演じる濃姫。気丈に振る舞いながら夫を立て、生死の緊張感を漂わせる姿に目を奪われた。反目していた2人はある日を境に近づく。したたかな濃姫が次第に恋し、信長との夢を見る姿が時に、魔王と化した信長を人間に戻す。芝居のぶつかり合いがなければこの夫婦像は成立しないだろう。

戦い前夜に2人で策を練るシーンでは、強がりながら意見を聞こうとする信長と、頼られたことを素直に喜ぶ濃姫に、歴史の表に見えない部分も垣間見えた。

東映70周年作品にして木村拓哉の最高作。信長が最期の瞬間に夢見たものは何か。歴史に名を残した信長が心から願った人生を考えさせられる。【加藤理沙】

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