「音楽」が題材になったのは43作目にして実は初めてだと思う。シリーズ3作目となる今井一暁監督は、コロナ禍で家にこもった子息がテレビを見ながら大声で歌う姿に、音楽が持つ力とのび太たちの冒険のイメージが膨らんだという。

物語はベートーベンの肖像画が飾られた懐かしい音楽教室から始まる。音楽会の練習で、のび太のリコーダーはのんきな「の」のように響き、外れっぱなし。突然現れた不思議少女ミッカがその音を気に入り、音楽(ファーレ)のエネルギーでできた惑星に一行を招く。地上から「音楽」を消す謎の生命体が迫っており、対抗し得る「音の達人」としてのび太に白羽の矢が立ったのだが…。

ダメっぷりがかなり抑制気味ののび太は妙にかっこいいが、音楽のない世界の寒々しさと、ディズニー「ファンタジア」のような胸躍る交響楽の描写がコントラストをなし、思わず心を揺さぶられる。中盤くらいからシリーズ屈指の傑作という実感がわいてきた。

マエストロ役で声優初挑戦の吉川晃司は貫禄と人間味がにじむ好演だ。「の」の音が最後にオチを付け、シリーズらしい締めくくりも気持ち良かった。【相原斎】

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