上方落語協会の桂文枝会長(74)が、今期(5月)限りでの退任を正式に表明したことで、次期会長に注目が集まっている。

 「やりきった。晴れやかな気持ちです。次の体制をサポートするにしても、元気なうちに退きたい。迷いはなかった」

 会長はそれこそ、すっきりした表情だった。03年の初任から歴代最長、8期15年。協会を公益社団法人へと変え、06年には上方悲願の定席「天満天神繁昌亭」を開き、今夏には神戸に「喜楽館」もオープンを控える。

 会長自身が「広告塔」として、フル回転。誰の目にも「桂文枝ならでは」の功績だったことに相違はない。ここまで「喜楽館」開館など、繁昌亭との2拠点運営を不安視する若手の反対を力技で押し切ったこともあった。会長自身も「独断でやってきたことはあった。それは申し訳なかった」と謝罪もした。

 「桂三枝」「桂文枝」の看板があったからこその力技だったのも事実。その文枝会長と同等の知名度、宣伝力を持った後継候補はいるのか-。それが厳しい。

 いや、実はいる。笑福亭鶴瓶さん(66)だ。実際、文枝会長は、鶴瓶さんを会長にしようと考えていた。5年以上前から、何度もオファーしたが、鶴瓶さんは固辞。もしも、鶴瓶さんが折れていたら、安倍首相顔負けの8期に及ぶ文枝会長の長期政権はなかった。

 前回(16年)と今年、2度の不倫騒動で揺れた末の文枝会長退任劇。騒動とは関係なくても、関連づけて見られる。鶴瓶会長が実現していたら、それこそ「もっと元気なうちに」会長を退くこともできた。

 では、いったい誰が次期会長なのか-。現状、若手を中心に信任が厚く、筆頭候補は笑福亭仁鶴師匠(81)の一番弟子、笑福亭仁智さん(65)。関係者によると、前回16年の選挙時にも、文枝会長、桂ざこば師匠(70)に次ぐ、3位の得票数だったという。

 文枝会長退任にともない、現執行部も体制の一新、若返りをはかろうとしており、体調不安も加えてざこば師匠はない。師匠の名跡を継いだ4代目桂春団治師匠(69)の場合は、文枝会長を側近として支えてきた立場から考えても、体制刷新とはならない。

 ならば、本来、筆頭候補は米朝一門の“若だんな”桂米団治さん(59)のはず-だと思っていた。上方四天王の中で、米朝師匠はただ1人、会長経験がなく、その息子が会長に就くのも運命か-とも。だが、米団治さんは「米朝事務所」の刷新で、代表取締役社長に就いたばかりで、会長職まで手が回らない。

 そこで浮上するのが笑福亭勢になる。松鶴の名跡は空位のままで、一門筆頭は仁鶴師匠だが高齢ゆえ、その筆頭、仁智さんの求心力が高まっているのだ。仁智さんは人格も温和で人望は厚い。芸は古典も創作もバランスがとれている。文枝会長とは同じ吉本興業所属で、連携も図ることができる。最有力に間違いない。

 ただ、松竹芸能を代表する松鶴一門にあって、仁鶴一門はやはり異端児だ。王道の松竹芸能路線でいけば、師匠の名跡を継ぎ、いまや「次世代ナンバーワン」とも言われる実力者、笑福亭松喬さん(57)もいる。笑福亭勢の票が割れるなら、他門も含めて、票の流れが読めなくなる。

 会長候補選は4月26日に決まった。その次期会長候補は5月の理事会で承認され、新会長が生まれる。文枝会長は、予想通り、仁智さんにバトンを渡すのだろうか。

【村上久美子】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)