テレビ朝日社員と知って驚く人も多いだろう。同局系情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」(月~金曜午前8時)でコメンテーターを務める玉川徹氏(55)。社員らしからぬ発言が何かと話題になるが、“大炎上”しないのには理由があった。入社以来ワイドショーに関わり続ける“モーニングショー人生”を振り返り、テレビマンとしてのルーツ、健康マニアの一面も聞いた。

★肩書はない

番組では「平社員」を名乗る。

「肩書はないんです。本当にないんですよ。ウィキペディアに『コメンテーター室』ってあるんですけど、あれ間違いです」

役職もないという。

「“テレビ朝日社員”でしかないですよ。名刺も『テレビ朝日 玉川徹』。社内の職制的に言えば、『モーニングショー スタッフ 玉川徹』なんです。よく番組で『平社員なんです』って言ってるんですけど、感覚的には平社員です」

64年に始まった「モーニングショー」はワイドショーの草分けで、その時の司会の名前を冠して放送される伝統番組。ADに配属された「内田忠男モーニングショー」から、「スーパーモーニング」「モーニングバード」を経て22年ぶりに復活した「羽鳥-」まで、一貫してワイドショーに関わる。

「社歴で一番長いのがモーニングショー。“モーニングショー人生”みたいな感じ。当時ADって少なかったんですね。今でこそ1、2年やるんですけど、当時は促成栽培。だから半年くらいでディレクターになりました。今もディレクターのつもりなんです」

「スーパー-」時代にリポーターとして自分のコーナーを持った経験から、コメンテーターについても「できないな、という感じはなかった」と振り返る。

「初めてコメンテーターをやる人はテレビの文法を知らないんです。変に踏み込んだことを言うと、何らかの地雷に触れてしまう可能性があるわけです。でも僕の場合、地雷は全部知ってるんですね、作っている側だから。体で知っている。そういうところが評価されたのかも知れないです」

★大炎上せず

発言がネット記事になることもしばしば。ただ、大炎上はない。

「僕もそう思います。やっぱね、ギリギリのところが面白いんですよ(笑い)。踏み外しちゃダメなんです」

悪く書かれることも。

「それはそう思われてOKだと思ったんです。ギリギリをやるには、おためごかしばかりじゃ面白くない。ほかの情報番組も、一視聴者として見ると『いい子ちゃんになろうとしてるんじゃないの、このコメンテーターは』っていう感じがよくあったんですね」

自分の意見が多数派ではなくとも、正しいと思えば主張する。その理由もある。

「僕がある種“炎上”みたいなことをしても、僕はそういうことをしゃべるって思えば、ほかのコメンテーターは自由にしゃべれるんです。『社員なのに自由にしゃべってるよ、だったら僕らも自由にしゃべれる』って。面白いじゃないですか、そういう番組」

★健康オタク

健康オタクの一面もある。体を気遣い、毎日同じ野菜スープを飲む。

「野菜をだしで30分煮ているだけなんですよ。野菜は工夫してますよ。カボチャとトマトは大事です。これが味の決め手なんです」

会話の中に「ファイトケミカル」「抗酸化」など健康ワードが飛び出す。日々のサプリも欠かさない。

「100円ショップで買ってきた、薬を入れるタワー(=連結ケース)みたいなやつ。土曜になると1週間分を全部1個ずつ入れて。かばんに入れて毎朝飲んでます。僕は“タワー”って呼んでますけど」

糖も気になるようだ。

「ご飯は少量を食べるようにしています。大量は食べません。パンは嫌なので、食わないです。パンは僕にとってはおやつでしかないです、どの局面においても。あれは主食とは見なさない」

生活は規則正しい。

「何時に起きるか決まると、あと全部決まっちゃうんです、1日が。会社に入る時間が決まってるんですね。用意の時間を考えると『4時45分に起きる』が決まるんですよね。『4時45分に起きる』が決まると、7時間は寝たいから『9時半に寝る』が決まるんですよ。で『9時半に寝る』が決まると、寝る3時間くらい前には食事が終わっていたいということで『5時半に夕食を食べる』が決まっちゃう。で『5時半に夕食を食べる』が決まると、そこでおなかがすくためには12時くらいに昼食が終わってないといけない。全部決まったでしょう?」

無駄な時間を過ごすこともあるというが…。

「ただ、自分で不合理だと思うことは嫌ですね。その無駄も、自分にとって合理的だったらいいんですよ。おかしい?」

★京大農学部

浪人後、京大農学部に進学した。バイオテクノロジーに興味があったが、希望かなわず農業土木分野へ進む。入学直後にもかかわらず、同級生の多くは官僚を目指して勉強していた。

「何のために官僚になるの? って聞いたら『だって民間に威張れるでしょ?』『天下りできるでしょ?』って言ってるんです。強烈な思い出で。そんなやつらが官僚をやってるってところから、僕の官僚追及が始まるわけですね。原体験、そこですから」

放送業界を目指したのは官僚追及のためではなく、テレビっ子だったから。

「日テレの『木曜スペシャル』は本気で見ました。矢追(純一)さんのUFOとか、ネッシーとか。あとは特撮もの。今でこそアニメって言いますけど、昔マンガって言いましたよね。『いなかっぺ大将』とか『ドラえもん』とか。大好きだったんです」

入社後、当時の編成局長に「ワイドショーだけはやりたくない」と宣言したことがあだとなり、見事配属。

「ワイドショーって当時は誇れる番組じゃなかった。今で言えば人権を無視するような取材をガンガンしてたりとか。ある種勢いはあったし、パワーはあったけど、何となく誇れない感じの番組だったんです」

1年目の89年、俳優松田優作が亡くなり取材にあたった。各局が斎場に押しかける中、それをしなかった。先輩には「特落ち(=自社だけ落とすこと)だ」とののしられた。

「撮りたくないから撮りませんでした、と。『火葬場の中まで撮ってこい』とか言ってるからワイドショーはゲスだって言われるんだよ、って大げんかしたんですよ。先輩と」

★人間の興味

だから自分のコーナーでは新しいことを試みた。

「スキャンダルも今でも興味あるしね、事件も興味もあるけど、人間の興味ってそれだけじゃないでしょう? いろいろ取材すると、何で高級官僚になると青山の公務員宿舎に7万円で住めるんだろうっていう疑問が出てくるわけですよ。そういうことやったら面白いんじゃないかと思って。官僚がワイドショーのテーマになることはなかったんですよね」

参院選を控えた15日には「緊急事態条項」をテーマに取り上げ、視聴率11・7%を記録した。

「だんだん世の中が変わってきて、視聴者が面白がって見てくれるようになったんですよね。政治もやるし、だんだん経済もやるようになってきた。時代は変わったんです。今は新入社員でうちの番組に来て、誇りに思えないなんて言う社員はいないと思いますよ」

最もテレビらしい番組であるワイドショーを支え続け、ここまで変えてきた自負がある。

▼「羽鳥慎一モーニングショー」の羽鳥慎一キャスター(48)

普段は、常識のある、優しい、気の良いおじさんです。健康のことを気にし過ぎて具合が悪くなってしまうような人です。ただ、本番になると、人が変わったようにスイッチが入ります。進行を無視する玉川さんのおかげで、大変な思いはしてますが、それが楽しく番組の盛り上がりにもつながってます。これからも好きなようにやってください。

◆玉川徹(たまかわ・とおる)

1963年(昭38)、宮城生まれ(誕生日非公表)。京大大学院農学研究科修士課程修了後、89年テレビ朝日入社。「内田忠男モーニングショー」「スーパーモーニング」などのディレクター、リポーターを務める。「羽鳥慎一モーニングショー」ではコメンテーターのほか、木曜コーナー「そもそも総研」を担当。座右の銘はトルストイの小説から「光あるうち光の中を歩め」。176センチ。血液型A。

◆テレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」

15年9月放送開始。司会はフリーの羽鳥慎一アナ、アシスタントは同局斎藤ちはるアナ。18年度の平均視聴率は9・3%で民放トップ。16年度から3年連続首位。(関東地区、ビデオリサーチ調べ)

(2019年7月28日本紙掲載)