俳優林遣都(31)が現在放送中の日本テレビ系ドラマ「初恋の悪魔」(土曜午後10時)で好演を続けている。10代から付き合いのある仲野太賀(29)と組むダブル主演。数々の人気ドラマを手掛けた坂元裕二氏脚本の警察署を舞台としたミステリアスコメディーの中で、ひと癖もふた癖もある推理マニアの刑事、鹿浜鈴之介役を任されている。10代で芸能界入りし、人生の半分以上をささげてきた役者の道。その思いを聞いた。【松尾幸之介】

★価値観試される

林が演じる鹿浜鈴之介は、凶悪犯罪解明に憧れて刑事となるも、大きな失敗をきっかけに停職処分を受けてしまう刑事失格の推理マニアという役どころ。脚本の坂元氏は、その役を演じる俳優をあらかじめ決めて書く「当て書き」でそのキャラクターを林に託した。

林 脚本を頂く前にそれぞれのキャラクターなどの資料をもらいました。本当に1人1人の背景が奥深くて、人物像が全く違っていて。「こういう人いるな」って人たちだったり「こういうことあるな」っていう出来事がちりばめられています。ここまで毎日わくわくしながら取り組める作品にはなかなか出会えないだろうな、という思いをかみしめ日々撮影している感じです。

撮影までに坂元氏から直接指示を受ける機会はなかったという。資料や台本にある設定を守りつつも、そこにある“余白”が役者魂をくすぐっている。

林 坂元さんの本には演者への愛情と期待みたいなものをすごく感じるんですけど、物語が始まってからも事細かい指示みたいなものはなくて。例えば衣装から、どんなメガネかとか、洋館に住んでいるとは書いているけど、そこでどんな生活をしているか、とかは自分の中で膨らまさないといけない。だからこそ演じる人によって全く違うものになるし、すごくやりがいがあります。その人の人間性や価値観とかいろんなものが試されるなと感じているので難しいです。日々悩んでいますけど、自分自身を信じることが大事なのかなと思って演じています。

★脚本坂元氏から“指名”

今回の作品は同じ日テレ系ドラマ「Mоther」(10年)「Wоman」(13年)「anоne」(18年)と同じ、坂元脚本、水田伸生監督、次屋尚プロデューサーのトリオによる約4年ぶりの作品。林にとっても抜てきへの喜びは大きかった。ひとつのきっかけにも思えるのが、坂元氏が脚本・演出を手掛けた昨春の舞台「坂元裕二朗読劇2021」東京公演への出演。同舞台には今回共演する仲野や松岡茉優(27)も出演していた。

林 映像でも関わりたいなと思っていたので、まさかこんなに早く実現できるとは思っていませんでした。それまで僕のことをどこまでご存じだったのかはわからないですが、朗読劇の時に話す機会があって、「またぜひ」みたいなことは言って頂いていたので、うれしかったですね。先日(ドラマで共演中の)安田顕さんとも話していたんですけど、坂元さんの本は、世間が決めつけているマイノリティーにスポットを当て、その人たちの弱い気持ちに寄り添った物語。そこがすてきだという話をしました。作品の軸となる部分を僕が演じる鈴之介にも注ぎ込んでいけたらなと思います。

ドラマは仲野演じる馬淵悠日、松岡演じる摘木星砂、柄本佑(35)演じる小鳥琉夏の3人も加えた部署の違う4人がそれぞれの事情を抱えながら事件の真相に迫っていく点が面白さのひとつとなっている。林はそれぞれが責任感を持って作品作りに励んでいると語る。

林 坂元さんの描くものをしっかり体現したいという思いをキャストに限らず全員が持っているので。その熱量はすごく感じます。だからどんなに暑くても、時間が遅くなっても、常にいい空気が流れています。コメディー要素が強い作品ですけど、ひたすら真面目に向き合っているという感じ。(仲野、松岡、柄本の4人は)前室とかでは和気あいあいとしています。オフの空気感も共有しながらやれている。信頼のチームですね。

★試行錯誤の15年

デビュー作は07年の映画「バッテリー」。いきなり主演を務めた華々しいデビューだった。以降も数多くの映画やドラマなどにコンスタントに出演。仲野はかつて、林について「同世代の俳優とよく話題になるのですが『遣都君って何回売れるんだよ!』って。今回の林遣都って僕の中で第4章くらいになるんです(笑い)」と語ったこともあった。林は苦笑いを浮かべつつも、自身の見てきた景色について語った。

林 今の現場もそうですけど、常にたくさんのすごい先輩方に出会ってきたので、まだまだだなと思わされることばかりです。だからこそ、ただひたむきにやるしかないという感じですね。それこそ今回の佑さんとかは前回共演した時から本当にほれぼれする役者さんだと思っていて。第1話の佑さんを見て落ち込むこともありました。本当に。自分が一生懸命考えても考えてもたどり着かないような発想や表現を目撃させてくれる。太賀が言うことはうれしいですけど、とにかくやり続けられて、求められ続ける人でありたいなと。そのために頑張りたい。それだけですね。

順調に見えるキャリアの裏側で試行錯誤を繰り返してきた。10代、20代、30代と年輪のように経験を積む中で、見えてきたものも少なからずある。

林 正直に言うと「バッテリー」の時に大きいスクリーンで主人公でデビューさせて頂いて、自分の中で将来に期待した瞬間がありました。でも、その幻想は打ち砕かれていく連続で。そんなにうまくいくことは常にないという。常に悩まされて。私生活、人間関係も含め、こういう風に生きられたらなと思うこともありました。10代は全く自分の想像していなかった道に進んで、流れに身を任せてという感じ。20代はそれではまずいと思ってきて、めまぐるしくお仕事も私生活も駆け抜けたなと。30代は地に足着いて、いろんな考え方や向き合い方、私生活もちょっと客観的に見て、40代へ向けて毎日大事にしていかないとな、と思っています。

★趣味の登山で息抜き

数少ない休みの中で、私生活では登山に出かけることなどが息抜きになっているという。30代になって新たに始めた趣味だ。

林 健康的なことをするのがリフレッシュになっています。山登りは20代ではあまりしていなかったこと。初級くらいの山ですけど、自然を感じてふっと一息つく感じ。ちょっと生活を変えて30代は過ごしています。わりと20代の頃は寝ないでもいけてた部分もあったんですけど、舞台に出るようになってからは逆に体が資本だと思うようになりました。万全の状態でいることで20代とは違ったことができるのかなと思っています。

林が見据える頂はまだまだ先にある。求め続けられる存在へ。その1歩をかみしめながら、目指す場所へと進む。

▼「初恋の悪魔」でダブル主演を務める仲野太賀(29)

遣都君は本当に献身的な人だと思います。作品のためなら身を粉にして、こっちが驚くような跳躍で頭から役に飛び込んでいく。信じた人にはとことん寄り添っていく、誠実な人です。口数は多くないけど、常に周りに対して優しさがある人です。思い返してみると「バッテリー」で出会った子供の時から、あらゆる局面で何度も助けてもらいました。長く一緒にいて印象が変わらないから、根っからそういう人なんだと思います。

◆林遣都(はやし・けんと)

1990年(平2)12月6日、滋賀県出身。中学の修学旅行で渋谷を訪れた際にスカウトされ芸能界入り。07年の映画「バッテリー」の主演で俳優デビューし、日本アカデミー賞、キネマ旬報ベスト・テンなど新人賞を受賞。11年WOWOW「コヨーテ、海へ」でドラマ初主演。21年7月に元AKB48で女優の大島優子との結婚を発表し、22年8月10日に大島が第1子妊娠が明らかになった。趣味は野球、特技は書道。血液型O。

◆バッテリー

あさのあつこ氏のベストセラー同名小説を原作とし、07年に当時デビューしたての林遣都を主演に映画化。林は類いまれな才能と自信を持つ投手の原田巧役を演じた。同作で仲野太賀と初共演。08年には中山優馬主演でNHKでドラマ化もされた。

インタビューに応じた林遣都(撮影・宮地輝)
インタビューに応じた林遣都(撮影・宮地輝)