俳優桐谷健太(44)が主演するWOWOWの連続ドラマW「坂の上の赤い屋根」(日曜午後10時)が、今日3日にスタートする。俳優になって22年。この作品では、編集者を演じるために10キロ近く体重を増やした。「目の前にある仕事を全力で楽しんで、充実させることに一番エネルギーを注ぐ」と言う、桐谷の素顔をのぞいてみた。【小谷野俊哉】

★役作り9キロ増量

小説家・真梨幸子氏の同名小説が原作で、複雑に絡み合った伏線、心理描写で読後感が悪いが、引きつけられる魅力がある。

桐谷が演じる編集者・橋本涼は出版社の敏腕編集者。18年前の女子高生と、その恋人による両親殺害事件をモチーフに、新人女性作家に雑誌に連載させる。だが、そこには登場人物たちの複雑な感情が絡み合っていた。

「企画書を読ませていただいて、すごく魅力的に感じました。自分がこの役を演じるとどうなるのかという興味深さをとても感じたので、すぐマネージャーに『これ、やりたいね』って伝えました」

「読んだ後にイヤな気持ちになるミステリー=イヤミス」というジャンルに属する。

「脚本を読ませていただいて、嫌な気持ちになるかどうかは、その人次第だと思いました。そこを決めるのも、結局は自分というか人間。登場人物の数だけ真実があるというか。人の視点によって真実も変わるし事実も変わっていく」

芥川龍之介の小説や黒澤明監督の映画を挙げて説明する。

「『羅生門』であったり『藪の中』みたいなエッセンスもある。そこのおもしろさ、人ってやっぱり心の闇がある。その闇も、人は『闇=悪』みたいな風に決めがちですけど、別にそうでもない。光があれば闇もあるでしょうし、そこに愛着であったり懐かしさであったり、親近感を覚える人もいるでしょう。見る人によっては、もしかしたらすごくすっきりするミステリーなのかもしれないっていう感じですかね」

桐谷演じる橋本と18年前の事件を追う、新人小説家・小椋沙奈を演じるのは倉科カナ(36)だ。

「僕が初めて主演をやらせてもらった映画では妹役で、婚約者同士もやったことがあります。今回は心の闇の階段を、どんどん下がっていかないと演じられない役。それは人によってはしんどいだろうし、つらさもあると思うんですけど、そこが役者冥利(みょうり)に尽きる役だったんじゃないかなと。最初にカナちゃんと一緒に撮影した時は、まだ彼女が20歳くらいだった。だから全然違った空気感、関係性でやれたというのもおもしろかったですね」

斉藤由貴(57)が演じる、市川聖子は億単位の予算を動かしていたが、経費を使い込み解雇された元編集者。男に入れ込み、身を滅ぼしかける。

「斉藤さんはある種、僕には知り得ない世界の技の使い手。僕の知らない世界の“酔拳”を使うみたいな。そういう独特の世界観から切り込んだ、それはもうお芝居と言っていいのか、持っている何かを出したのか。それを間近で見られたことは、刺激的でおもしろかったです」

演じた橋本は優秀な編集者。闇を抱えた人間たちの中で、善良さそうに見えるが、それが実は闇だった。

「撮影に入る前に、最後までの流れをしっかりと築いていこうと思った。橋本のいろいろなことを自分の中で純度を高めていって染み込ませていった。直感的な部分でやった部分もあるんですけど、ちょっと体を大きくしてみようとか。今より、9キロくらい体重は重いです。闇というか橋本の本性が見えてきた時に、ワッて変わるよりも、最初の方からなんか引っかかって違和感あった、ちょっと不気味なとこあったよねって。橋本の、ある種の闇が浮き彫りになった時に“気がついたら隣にいた”みたいな。そういう恐怖感を出せたらいいなという思いがありました」

★クラブお立ち台

5歳の時に米映画「グーニーズ」を見て俳優になりたいと思った。

「スポーツ選手をカッコいいと思うことはありましたけど、ずっと俳優をやりたいって思っていました。中学の時にラスベガスのギャンブラーになりたいなとか、世界中を何も考えずに旅してみたいなっていう風に思ったこともありましたが、この仕事って両方持っている。世界中どこにでも行くし、めちゃギャンブルやなと思って。じゃあ、やっぱこっちやなって」

俳優になるのに、無駄なことは何一つなかったと言う。大阪から大学進学で上京するまで、全ての出会いが今につながっている。

「大阪で歩いてる時に美容師さんに声かけられて、ヘアショーに誘われて『絶対出ます』って出た。その時に一緒にやったモデルさんに『俺、もうビッグになります、世界取れますよ』みたいな。高校生の時でしたけどね(笑い)。『じゃあ、東京に行かなきゃ』みたいに言われて、大学受けて東京へ。入学式の時にいろんな人に『俺、ビッグになります』みたいにガーって言い回ってる時に、先輩が『お前、おもしろいな』ってクラブに連れて行ってくれた。お立ち台で踊ってたら、モデル事務所を紹介されて。いろいろなことが、ガーってつながってるんですよ。どれも、これがなかったらない、っていう人生なんです。だから転機になった作品というのはない。マジで、今まで出たどの作品も、次の作品へつながったっていう感覚が強いんです」

16年にCMの「海の声」がヒットし、同年大みそかにNHK紅白歌合戦にも出場した。

「自分の中で役者っていうのは、役というフィルターを絶対に通す。自分が気持ちよく行っても、監督が『もう1回お願いします』ってなるパターンもある。でも歌は、俺の中で気持ちよかったら“正解”。自分の中で突き抜けるように気持ちよく歌えれば、それでいいんだってなれる」

22歳でデビューして、現在44歳。人生の半分を俳優として生きてきた。

「やっぱり1日、今ある仕事というか、撮影を全力で楽しんで、充実させてということに一番エネルギーを注いでますね。そうやっている間に、次にこういうのが撮影があるなとか、ふと思うこともある。だけど、次のことを考えるよりも、今を楽しんでやるだけですよね、思いっきり」

まだ、道は続いている。

▼新人小説家・小椋沙奈を演じる倉科カナ(36)

沙奈ちゃんは、新人賞を取った後になかなか次の作品を書けずにいて、力を誇示したい気持ち、焦燥感がある。演じていてものすごくエネルギーを奪われる役でした。共感するところもあるけど、思った以上にハードな役でした。桐谷さんとは、若い頃から共演回数も多くて「お兄ちゃん」と呼んでいます。今回の撮影中もオフタイムは「お兄ちゃん」と呼んでいて、2人で話していて癒やされました。見応えのあるドラマで、最後の最後まで結末が分からない。物語にのみ込まれていく感じでした。

◆桐谷健太(きりたに・けんた)

1980年(昭55)2月4日、大阪市生まれ。02年、テレビ朝日系「九龍で会いましょう」で俳優デビュー。04年、映画「パッチギ!」で話題となり、07年「GROW 愚郎」で映画初主演。08年、TBS系ドラマ「ROOKIES」や09年の初舞台「恋と革命」で主演。11年、エランドール賞新人賞。13年「喜びの歌」でCDデビュー。15、16年度CMタレント好感度ランキング男性1位。16年に、auのCM「三太郎」シリーズの「海の声」でNHK紅白歌合戦出場。181センチ。血液型O。

◆「坂の上の赤い屋根」

編集者の橋本涼(桐谷)は新人作家・小椋沙奈(倉科)の連載小説を手がける。18年前に両親を殺害した青田彩也子(工藤美桜)と恋人の大渕秀行(橋本良亮)の事件が元になっていた。大渕は死刑、彩也子は無期懲役が確定していた。