退団予定の専科スター華形ひかるは、最後の公演を前にインタビューに応じていた。入団22年目。男らしさを極めてきた華形は、役作りの肝に「声色」をあげた。星組公演「眩耀(げんよう)の谷 ~舞い降りた新星~」「Ray -星の光線-」での最後の役は、主人公敵役。将軍の設定に「野太い声」で臨んだ。中断もあった兵庫・宝塚大劇場も千秋楽は上演され、愛した本拠地には別れを告げた。

退団公演への思いを語る華形ひかる(撮影・上山淳一)
退団公演への思いを語る華形ひかる(撮影・上山淳一)

タカラジェンヌとして臨む最後の舞台。そのインタビュー後、サイン色紙に「心」と書き込んだ。「22年目の春で終わります。長かったですよ、長かった」。元星組トップ柚希礼音と同期。男役としては小柄ながら、花組で「ザ・男役」の色香を磨いてきた。

14年7月に専科へ移り幅広い役に挑戦。落語を題材にした18年の異色作「ANOTHER WORLD」では貧乏神を好演した。

「(退団は)いろんな考えがある中でのひとつの道。『こうしたい』と思うことを最後に選んだ。1ミリでも『いいのかな?』と感じるものではなく、集大成として選ぶべき道だった」

昨年、前星組トップ紅ゆずるのサヨナラ公演出演中に、退団を決めた。最後の公演は礼真琴、舞空瞳の星組新コンビ本拠お披露目。宝塚公演は新型コロナウイルスの影響で中止もあったが千秋楽は上演された。華形は敵役になる将軍役だ。

「腹黒いというか、ホントに悪の方の…」。役作りでは「耳」を大切に、声を変え演じ分ける。

「お客さんは最終的に耳でキャッチすると思う。大劇場ともなれば、2階の端からだと、ひげがあるかどうかも分からない。まず耳から。今回は野太くて、地に響くような声。力で屈服させていくような」

宝塚人生を振り返り「やってきたのは全部、本当に自分かな?」。集中し過ぎ、役が日常を侵食する「ヤドカリ状態」も経験。08年「銀ちゃんの恋」では「すごく肩を揺らしている」と指摘されたこともあった。

「同じ男性でもフォルムも歩き方も違う。リーチ・マイケルみたいな人も、羽生結弦みたいな人もいる。『人』を作るから、歩き方や声色も変わる。役に染まりながら生きているので、私生活にまで出ちゃう」

それが、男役を追求してきたスターの答えのひとつ。退団後には「どこまで答えていい?」とおどけつつ、芸能活動は「多分やらないと思う」と返した。

「今の気持ちは、男役が好きで突き詰めたいと思ってきた。『外でもうひと花咲かせてやろう』って気持ちはまったくない。女優さんに、あんまり興味は…」

中学時代、知人に勧められ、入団を志し合格した。

「(劇団)106年の歴史に比べたら、22年なんてたかだか1/4弱。でも、奇跡的だったと思う。(宝塚音楽学校の)倍率も、残ることになった倍率も。本気で辞めようと思ったことはないですし、負けてこなくてよかったな、と思う」

毎年、約40人が入団する。トップはもちろん、主力に定着するのはひと握り。「22年。生まれた子が成人して、就職まで…」と時の流れへ思いをはせた。

「男役は、ここにしかない。伝統に進化、時代、流行もある。宝塚を知らない人たちには、私たちが滑稽にうつる面もあると思う。でも、それを『是』とする世界観、ここだけの時間の流れが好きです」

大好きな男役、宝塚へ思いを胸に、夢の国に別れを告げる。【村上久美子】

◆幻想歌舞録「眩耀(げんよう)の谷 ~舞い降りた新星~」(作・演出・振付=謝珠栄) 紀元前の中国大陸が舞台。西方からきた流浪の民「■(ぶん)族」は、神「瑠璃瑠(るりる)」の使いに導かれ、亜里(あり)という地にたどり着き、小国「■(ぶん)」を築く。だが、勢力拡大の周国に首領を討たれ、統治下に。この地に新しく大夫として赴任した丹礼真を中心に描く歴史ファンタジー。

※■はさんずいに文

◆Show Stars「Ray -星の光線-」(作・演出=中村一徳) 光、光線、熱線を意味するRay。新コンビの本拠お披露目ショーには、華形も多くの場面で出演。

☆華形ひかる(はながた・ひかる)9月26日、東京都中野区生まれ。99年入団。花組配属。新人公演は最終学年の05年「落陽のパレルモ」で初主演。09年「フィフティ・フィフティ」で宝塚バウホール(ダブル)主演。14年7月に専科へ。各組へ出演し、18年の落語を題材にした「ANOTHER WORLD」では、貧乏神を好演した。身長168センチ。愛称「みつる」。