宙組、そしてトップ真風涼帆にとって、約1年ぶりの本拠地作になる。ブロードウェー発のミュージカル「アナスタシア」は、兵庫・宝塚大劇場で11月7日に開幕する(12月14日まで)。再開後、すでに外部劇場作には主演し、ファンの温かみを実感。「100年(を超えた歴史)の愛の絆を感じた」と言い、原点を確認し、宙組全員での本拠地作へ臨む。東京宝塚劇場は来年1月8日~2月21日。日程は予定。

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再開後、初の外部劇場作に主演。今回、宙組全体を率いての本拠地作になる。

「スタッフの方々と、万全な環境を整えながら進めています。当たり前ではない日常。お稽古の1日1日も大切にしたい。感謝の気持ちが大きいです」

コロナ禍によるスケジュール見直しで、大劇場に立つのは1年ぶり。「去年も年末公演で、正月は東京。予想だにしなかった状況も、みんなが前向き」。作品は、アニメ映画発のブロードウェー作「アナスタシア」で、1本ものだ。

「随分前に(米国で)たまたま拝見していて。舞台がロシアからパリ、宝塚で扱う題材と親しみがあり、お子さまからお年寄りまで楽しめる。愛の深さが切なくも、温かいすてきな作品だなと思っていました」

ロシア革命で殺害された皇帝一家の末娘アナスタシアが難を逃れていたという「アナスタシア伝説」。宝塚版では、詐欺師ながら純真な心を持つディミトリを主人公に、アーニャ(星風まどか)との旅を描く。

「最初は詐欺師ですが、夢をもってパリに行く。あの時代のロシアで、きれい事だけでは生きられない。宝塚版で新しい楽曲もいただき、『悪さ』も新しい視点で楽しんでもらえれば」

3~4月に東京、大阪で葵わかな、木下晴香主演で日本初演も、途中で中止。観劇の予定も消えた。ただ、アニメ版は見た。

「(舞台版と比して)音楽はここにくるんだ-とか。楽しかった。あの時代、ディミトリもアーニャも、自負がぶつかり合う要素のひとつ。自分の嫌な部分が似ているからこそぶつかり合うのかなとも思います」

前作の外部劇場作「FLYING SAPA」はほぼ歌がなく、一転して今作は大作ミュージカルだ。

「もう、ゼロか100か(笑い)。ガラッと気分を変えて、ミュージカルやるぞ! という気分で。(前作は集客に)不安も多く、それでも私たちが舞台の上で生きている姿をお見せして、何か伝われば-と。幕が開けると、お客様が思いを受け止めてくださった」

ファンへの感謝の思いも強まり、原点を感じた。

「100年以上続く歴史の中で、お客様と一緒に培ってきた強い絆だな、と。あらためて、宝塚という場所、お客様の愛の大きさに、言葉を失いそうでした」

自身は自粛期間中、本を読み、映画を見ていた。

「自分の作品、舞台に関係ないものを。何もない状況の中、自分が選んでいいので、何を見るか? 何したらいいんだろ? となりまして(笑い)。でも1周回って行き着く先は『舞台に立ちたい』『宝塚ってやっぱりいいな』でした」

自身を冷静に振り返る時間を得て、「当たり前」への感謝も心に刻んだ。

「今回は王道のミュージカル。見れば明るい気持ちになれると思う。こんな時期だから家族、愛というのは、誰の心にも響く。(観劇の)3時間が不安を忘れられ、明日への活力となるように。一緒にロシアからパリへ旅しているような気分になっていただければ」

雪組の望海風斗が退団すれば、トップ最上級生。「そうですね、ほんとに!」と、時の流れに驚き、おどけつつも、自覚は胸に刻まれている。【村上久美子】

◆ミュージカル「アナスタシア」(潤色・演出=稲葉太地) アカデミー賞で歌曲賞、作曲賞にノミネートされた同名アニメーション映画(97年)から着想し、制作されたミュージカル。ロシア革命で殺害された皇帝一家の末娘アナスタシアが、難を逃れて生きていたという伝説を描く。ブロードウェーでは17~19年までロングラン上演。18年にはスペイン、北米ツアーなど世界各国で上演された。今年3月に日本初演、今回、宝塚歌劇版として登場。詐欺師でありながらも純真な心を持つ青年ディミトリ(真風涼帆)と、アナスタシアによく似た記憶喪失の少女アーニャ(星風まどか)が繰り広げる愛と冒険の物語。

☆真風涼帆(まかぜ・すずほ)7月18日、熊本県生まれ。06年入団。星組配属。新人公演主演5回。15年5月に宙組へ移り、17年11月にトップ就任。昨年春~夏「オーシャンズ11」では、11年新人公演でも主演したダニーを好演。今春は「FLYING SAPA」予定も中止。再編成で8月に再開後初の外部劇場作として大阪、東京で上演。身長175センチ。愛称「ゆりか」「すずほ」。