在位丸5年で退く月組トップ珠城りょうは、最後の公演「桜嵐記(おうらんき)」「Dream Chaser」で、“男役・珠城りょう”としての姿を「しっかりとお見せしたい」と誓う。芝居は、滅亡をたどる南朝の武将・楠木正行役。演出家のあて書きイメージ「大きく幹の太いまっすぐな木」に沿い、集大成をぶつけて表現する。兵庫・宝塚大劇場で15日~6月21日、東京宝塚劇場は7月10日~8月15日の予定。

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トップ5年を「あっという間」と振り返る。

「瞬間、瞬間をがむしゃらに、宝塚、男役、月組のトップであることにすべてをささげて歩んできた。色濃いけれど、ほんの一瞬のできごとだったような…」

「男役10年」の世界で、9年目での就任。近年では、天海祐希の7年に次ぐスピードだった。「(5年の)経験を積ませていただいた。それだけのものをお見せして卒業したい」。

退団発表は通常より早い、前回本拠地作開幕前の昨年3月。退団の「実感は全然なかった」が、今作ショーの稽古が始まり、プロローグの振り付け時に卒業を初めて実感したという。

「月組のみんなが食い入るように見つめてくれて…。その空気感が、今まで私がトップさんをお見送りしてきた、退団公演の稽古場の空気で。あ、私辞めるんだ! と思いました」

背中で「男役」を教え、心で「包容力」を意識してきた。今作で演じる楠木正行は、敵兵からも慕われる。演出の上田久美子氏から、主人公像は「幹が太く大きく、まっすぐな木」をイメージしたと言われた。

「温かさと包容力を体現できるように。皆さん、私には『安定感がある』とおっしゃってくださるので。大きい木は、根がしっかりしているじゃないですか」

正行は不器用に描かれ、珠城自身も「曲がったことが嫌い。1度決めたことは貫きたいタイプ」と共感を覚える。稽古に入る前、吉野の桜を映像などで見て、最後の合戦場、大阪・四條畷にも足を運んだ。

「宮本武蔵を演じた時にも岡山へ行き、建物は変わっても、その場、土地に流れている空気があると思った。感じた空気感を大事にしたいと思っています」

公演ポスターに書かれた「限りを知り 命を知れ」の言葉は、タカラジェンヌの宿命にも通じる。

「正行も、最後は負け戦と分かっていて出立する。私たちも、いつの日か卒業する日が来るのを分かった上で、それまでどう生きていくか。その中で、葛藤も出会いも別れもある」

同時退団する相手娘役の美園さくらとは「先生方や月組の皆がいい形で送り出そうという空気感や愛情が痛いほど伝わってきて、こんなに幸せでいいのかと。その思いに応え、恩返しを-と。真摯(しんし)に向き合おう」と話した。

ショー演出の中村暁氏には「退団公演ですが、私も未来に希望を持っていきたいし、月組のみんなも宝塚で未来がある。お客様にも明るく、未来へ希望を持ってもらいたい」と伝えた。

プロローグや主題歌に「爽やかで明るいけど、少し切なく、温かさがある。自分が思い描いていた世界観ですてき」と感謝。「最後に皆様に『宝塚の男役の珠城りょう』をしっかりと、目に焼き付けてほしい。それは間違いなくお見せできると思います」と言う。

ソフト帽にスーツで踊る場面、タンゴもある。月組の充実も実感する。

「それぞれがどう考え表現するか。学年に関係なく1人の役者として、どうアプローチするか。背中を見せながら導いてきた。今とてもいい形で充実していて、みんなの5年間の努力、成長だと思う。その中心にいられることが誇りです」

9年目で就任した際「未熟なのは自分が一番分かっていた」とも述懐する。

「でも、月組の質が落ちた-とか言われるのだけは絶対に嫌だった。今の月組を守り抜く、すてきな組だねと言わせてやる! と。ファンの皆さん、月組の皆の愛情に全力でこたえる-その思いがすべてでした」

誓い、目標、夢を結実させ次代へバトンを渡す。トップ就任直後、今の思いを問われ「輝」と表現した。

「おお! 輝くって言いましたね(笑い)。キラキラとした未来へ向けて。今、思うことは希望。だから『希』。今、世の中も不安ですが、必ずどこかに希望はある。未来に向けて、希望をもって歩みたい」

希望を胸に未知の大海原へと踏み出す。その前に、「男役・珠城りょう」を完成させる。【村上久美子】

<次期トップ楽しみに>

次期トップ月城かなとは1年後輩。宝塚音楽学校時代は予科、本科の関係だった。「あまり接点がなかったんですが(月城が月組に)組替えしてきてから話をして」信頼関係を築いた。「れいこ(月城)の宝塚人生の中で、自分がこうと思うものを作っていけばいい。(1年差で)彼女も十分にキャリアを積んでいる」と心配はない。次期トップ娘役の海乃美月ともども安定感あるコンビに「私は楽しみに、ひそかに見守ります」と話した。

◆ロマン・トラジック「桜嵐記(おうらんき)」(作・演出=上田久美子) 舞台は南北朝の動乱期。父の遺志を継ぎ、弟正時(鳳月杏)、正儀(月城かなと)とともに、南朝のために戦う楠木正行(まさつら=珠城りょう)は、吉野の山中へ逃れ、行く末には滅亡しかないと覚悟する。その最中、縁者を亡くし、敵討ちを誓う後村上天皇の侍女、弁内侍(美園さくら)とつかの間の恋を得る。

◆スーパー・ファンタジー「Dream Chaser」(作・演出=中村暁) 夢を追う“ひたむきな情熱”がテーマ。トップ珠城が描く「夢」を詰め込んだショー。

☆珠城(たまき)りょう 10月4日、愛知県蒲郡市生まれ。08年入団。月組配属。16年9月、近年では天海祐希(7年目)に次ぐ9年目でトップ就任。18年「エリザベート」で宝塚10代目トート、同公演でトップ娘役愛希れいかが退団。後任に2人目相手娘役の美園さくらを迎えた。身長172センチ。愛称「りょう」「たまき」。

トップ5年、男役・珠城りょうの完成を誓いサヨナラ公演に臨む珠城りょう
トップ5年、男役・珠城りょうの完成を誓いサヨナラ公演に臨む珠城りょう