連続ドラマ。放送が半分に差しかかる時期であり、そろそろ評価がまとまりつつあるのではないかと思う。視聴率トップは安定の人気シリーズ「相棒 season21」。それに続くのが「ザ・トラベルナース」、脚本を「ドクターX」の中園ミホが担当し、医療ものといえども目新しい設定で、内容もとても見やすくシリーズ化が期待できそう。主演の岡田将生もだが、中井貴一が特にイキイキとしている。本格的なイケおじブームが来るのかもしれない。

続くのは、安定の日9「アトムの童」に月9「PICU 小児集中治療室」。他に話題になっているのは、若者を中心に社会現象になりそうな「silent」、街角で青いニットの女子を見かけるとつい視聴者なのではと想像してしまう(笑い)。最後に、前回も挙げたが「エルピス-希望、あるいは災い-」も業界人に注目されているのではないかと思う。

「エルピス-希望、あるいは災い-」、正直まだわからない。物語は、テレビ局が舞台で、エースの座から転落した女子アナウンサー・浅川恵那(長澤まさみ)が、冤罪(えんざい)事件を真相究明するところからはじまる。「モテキ」などの大根仁演出ということで1話完結のテンポのよい作品かと思っていたがそうではない。眞栄田郷敦演じる若手ディレクター・岸本目線で進むこともあり、そこまで重い内容にはなっていないが、冤罪事件から派生してテレビ報道を批判する構図が見て取れる。

安倍晋三元首相の実際のニュース映像が使われるなど相当とがった内容になりつつあるのは間違いない。渡辺あやの民放連続ドラマ初脚本に、この作品のために退職したプロデューサー、ここからさらに何かが始まるのかもしれない。

そこで今回紹介したいのは、「エルピス」に出演している鈴木亮平。ドラマの中では浅川と同じテレビ局で働くエリート社員。浅川と岸本が大筋のラインだが、浅川の元恋人として岸本の先輩として、物語に絡んでくる最重要人物である。 改めて、鈴木亮平、2018年には大河ドラマ「西郷どん」で主演を務め、名実ともに日本を代表する俳優の1人である。昨今の人気俳優に多い子役出身やライダー出身ではなく、俳優として着実に成り上がってきた。

ブレークのきっかけになったのは、映画『HK 変態仮面』。約10年前、ほぼ全裸でパンツをかぶっていたとは今の活躍を考えると到底考えられない(笑い)。あと映画「孤狼の血 LEVEL2」も印象的であった。狂犬・上林を見事に演じ、完全に映画を自分のものにしていた。

人格者から狂犬まで演技の幅が広く、毎回どんな役をやってくれるのか楽しみである。そして今回のドラマでは、多少冷徹な印象もあるが、元恋人と接するシーンなどでは色気がだだ漏れている。雰囲気含めて表情やセリフの発し方において、その場を占める圧倒的な存在感である。

時期的にサッカーで例えると前哨戦であるカナダ戦の後半に出てきた鎌田を思い出させる。中盤で落ち着いてボールをさばく姿は王様そのもの、オールドサッカーファンにはカントナといえばわかるだろうか。ドラマの中では、ボールを運ぶ眞栄田に、得点を決める長澤、そして中盤に君臨する鈴木。今後の展開に注目である。

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営している。最新作「追想ジャーニー」が11月11日から池袋シネマ・ロサ他にて公開。

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)