【先週の言葉】「薩摩弁でもいろいろなご指摘をいただき、今回もいろいろな議論があった」

 奄美大島、沖永良部島への“島流し編”がスタートしたNHK大河ドラマ「西郷どん」18話(13日放送)で、奄美ことばのせりふを全編にわたり字幕放送した桜井賢チーフ・プロデューサーの言葉です。

 方言のリアリティーに強いこだわりを持ってスタートした「西郷どん」。本格的すぎる薩摩弁に、1話から「よく分からない」「字幕がほしい」などの反響が寄せられて話題になりましたが、奄美ことばも方言のこだわりを継承しています。「キュウ ヤ ウガミショーラ(こんにちは)」など、もはや勘や雰囲気で理解できるレベルではないため、二階堂ふみ、柄本明ら島民のせりふ部分は全編字幕の演出に踏み切りました。

 桜井さんは「外国に来たような吉之助(西郷)の目線で島編に入り込んでいただければ」。方言の程度についてスタッフ間でも議論があったと明かし、「ベストな選択だったと思う」と自信をみせています。

 放送後、ネット上は「とうとう字幕がないと伝わらないレベルに」「音だけだと内容が分からん」「視聴者にスパルタすぎる」と途方に暮れる声や、「字幕はありがたい」「異国感があっていい」「役者さんたちすごい」という肯定派の声などさまざま。ざっと見る限り、最も多いのは「つけるなら薩摩弁にも字幕をつけて」という声。「江戸編以外は全部字幕でいい」など、苦戦しながらもついてきている様子がうかがえます。

 ちなみに、沖縄を舞台にした93年の「琉球の風」(主演・東山紀之)はせりふが標準語だっため、字幕は使われていません。フィリピン・ルソン島編が数話あった「黄金の日日」(78年)や、パリ万博から始まった「獅子の時代」(80年)など、海外編の一部に字幕が使われた例はありますが、日本国内のストーリーでほぼ全編にわたり字幕がつくのは「おそらく初めて」(NHK)。字幕状態が25話まで、8話分にわたるのも「おそらく初」としています。

 私にとって大河ドラマは、作家の世界観でぐいぐい見せる究極のエンターテインメント。物語が面白ければ時代考証もことば考証も二の次でいいと思っています。幕末大河でいえば、会津、薩摩、江戸の躍動感を絶妙な方言センスで走り抜けた「獅子の時代」(脚本・山田太一)の記憶が鮮烈なので、受け手に字幕の負担を強いてまで細部のことば考証にこだわる時代性にはちょっとついていけません。一方で、誰もやったことがないチャレンジであれば買いたいのも本音。ぶっちゃけ、薩摩弁に苦戦しまくって序盤から字幕がほしかった派なので、ようやく奄美ことばで実現して新鮮ではあります。

 違和感がありながら字幕反対と言い切れずにいるのは、スタートした島編が面白かったんですよね。入水自殺で自分だけ助かり流刑となった絶望、知らなきゃよかった薩摩藩のダークサイド、自分の活躍が島民の犠牲の上に成り立っていたという事実。人格が変わるほどの衝撃を一気に受けた西郷の新章が丁寧に描かれていて、これまでのおめでたい人物像がぐいぐい塗り替えられる迫力があったのです。

 島での妻となる愛加那を演じる二階堂ふみさんも魅力的でした。土臭い力強さがあって、浜辺で奄美ことばで歌う島唄「よいすら節」が美しかったですね。二階堂さんは沖縄出身。「感覚的に奄美ことばが分かる」そうで、自然なせりふ回しで島編の世界観を支えています。「ナースグ ナンヌウトゥヌ キュンド ウミヌアマカラドゥ(もうすぐお前の夫がやってくる 海の向こうから)」。ユタ神様のお告げがちんぷんかんぷんすぎて呪文のように聞こえるせいか、逆に言霊感が漂って2人の出会いを盛り上げたのも、字幕演出の効果かもしれません。

 映画のように、受け手がスクリーンに集中している環境ならば字幕で問題ありませんが、食事や家事、スマホなどガチャガチャしたテレビ周りの環境でのほぼ字幕はかなり大胆。とりあえず、このところ11%台に落ち込んでいた視聴率は、18話で14・4%に回復しました(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。これから2カ月、字幕の挑戦の行方に注目したいと思います。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)