14日にNHKで行われた次期大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(来年1月6日スタート、日曜午後8時)の1話試写会に出席したチーフ演出、井上剛さんの言葉です。完成披露試写会という晴れ舞台で登壇者がネガティブな胸の内を明かすのは極めてまれ。チーフ・プロデューサーの訓覇圭さんも、囲み取材で「ダメですか?」を連発しました。なぜか取材陣が「ダメではないです」と励ますという不思議な展開。リアルにしろネタにしろ、重圧のほどがうかがえました。

脚本は、朝ドラ「あまちゃん」などで知られる宮藤官九郎さん。笑いは見どころのひとつです。井上さんは「大河ドラマと銘打っていますが、目指すのは“日曜8時に楽しいドラマ”ということ。そうなっているといいなと思って皆さんを見ていたんですけど…」「笑いが少なかったのは、食い入るように見てくれたということですよね? 違いますかね。難しかったでしょうか」。いきなり空気が重くなってしまい「これから分かりやすいドラマを作っていこうと思いますっ」とボケたところで爆笑が起き、ホッとしたように着席しました。

座席中段から見ていた限り、ちゃんと笑いは起きていました。みんなメモをとりながら見ており、タレントさんのように手をたたいて派手に笑う習慣もないので、最後列で見守っていた井上さんには伝わりにくかったのかもしれません。

2人が笑いの量を気にする背景には、「分かりにくいかもしれない」という自覚と不安があります。前半の主人公であるマラソン選手、金栗四三(中村勘九郎)の物語は2話から。1話は、日本オリンピック史と携わった人たちの壮大なプロローグになっています。舞台となる明治と昭和が次々と切り替わるので、「ぼんやりしていると分からなくなっちゃう」(訓覇さん)恐れがあるのです。

確かに、試写後の記者たちからは「途中分からなくなった」という声も聞かれたと同時に、「映像で分からせる力ワザを感じる」「資料映像がある時代の大河が新鮮」という評価もありました。そのへんの見どころは、前半の主演である中村勘九郎さんが端的に語っていて、「怒濤のように登場人物が出てきて、時代が変わるわ場所が変わるわ。宮藤さんや井上さん、訓覇さんが視聴者の皆さんに叩きつける挑戦状のようでわくわくした」と表現しています。

勘九郎さんが「みんな目をキラキラさせて作っていて、不安やプレッシャーを感じている人はいないと思う」と胸を張ると、訓覇さんが「いや、あります」と横からツッコミを入れて爆笑が起きる場面も。訓覇さん単独の囲み取材では、質問者に「ダメですか」を連発しました。「主人公が最後まで出てこない1話は珍しいのでは」「ですよね。ダメですか」「ダメじゃないです」。「紀行コーナーにオリンピック選手が登場する試みの意図は」「ダメですかね」。「これだけの資料映像をどう集めているのですか」「面白いですよね。ダメですか」「ダメじゃないです」。

ここまでくるともはやネタというか、新種のPR戦略、マスコミ対策なのかもしれませんが、責任者が不安を口にすると現場が萎えやしないか心配にもなります。最後は「この1話を、視聴者にどう見てもらいたいですか」という質問に「正月の夜8時に見て楽しいかってことがいま不安でしょうがない」。思わず質問者が「大丈夫ですよ」と励ましていました。

分かりにくいかどうかはさておき、日本オリンピック史に携わったアツい人たちのアツいお話、というシンプルな物語。超個性的でおもしろい人物たちを豪華俳優陣がフルテンションで演じ、夢の実現にぐいぐい引っ張ってくれる作風です。個人的には、笑える痛快劇として楽しめたのですが、ダメですか。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)