フジテレビが、バラエティー復活への試みとして立ち上げた社内イベント「企画プレゼン大会」が先ごろ行われた。企画力向上と、若手ディレクターの発掘・育成が目的で、入社3年目でゴールデンのレギュラー枠を射止めるシンデレラボーイも輩出している。3回目となる今回も「フジテレビを自分の手でもういちど1位にしたい」という20代が続いた。若手パワーで何かが変わるだろうか。

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大会の名称は「13階クリエイター企画プレゼン大会」。13階とは、バラエティー番組を制作する第二制作室のフロア階数。所属ディレクターや制作会社スタッフから次世代のスタークリエイターが生まれることへの願いを込めた。59本の書類審査を勝ち抜いたファイナリスト8人がそれぞれ3分のプレゼンを行い、会場に集まった社員約130人が投票。その場で順位が決まり、金銀銅のメダルに輝いた企画は特番枠での放送が約束されるという「フジテレビ初」(編成局)のオープンな試みだ。

立ち上げの背景には、やはり「フジテレビバラエテイー復活」への強い思いがある。昨秋、視聴率低迷で「非常事態宣言」を行った同局は、17年秋、18年春、18年秋の3改編で攻勢に転じる計画を発表し、総仕上げの秋を迎えている。情報番組とドラマが復調の兆しを見せ始めた中、あとはバラエティー待ちの状態となっている。

編成局制作センターの坪田譲治担当局長は「ジャパニーズドリームというか、いい意味での競争や闘争心というフジテレビの文化をもう1度掘り起こしたい」と意図を語る。現場時代に「なるほどザ・ワールド」「SMAP×SMAP」「笑っていいとも」などを手掛け、約10年ぶりに担当局長として古巣のバラエティー畑に戻ったばかり。「バラエティーは20打数1安打が当たり前の世界。ヒットの打率を上げるためにも、まずは打数を増やすことが大事」と明快だ。

結果は出始めている。昨年9月の第1回は、入社2年目の千葉悠矢ディレクターが金メダルを獲得した。プレゼンした「超逆境クイズバトル!! 99人の壁」は1対99の斬新なフォーマットが話題を呼び、3回の特番放送を経て、この10月から土曜7時のゴールデン枠へ大出世した。25歳の総合演出誕生は、テレビ界でも大きな話題だ。

ほかにも、制作会社スタッフが企画した「ロケ最強芸人決定戦 外王」や、報道からの転身組が“世の中で禁止になっているもの”に焦点を当てた「NG調査団」、「FNS歌謡祭」など音楽番組を手掛ける女性ディレクターが企画した夢バラエティー「夢の数だけ抱きしめて」など、フレッシュな企画が次々と特番放送され、フジのバラエティーを活性化させつつある。

坪田氏は「入社2年目が金メダルという下克上は、第二制作室のベテランにも若手にもいいモチベーションになった。若手は実績や知名度がないゆえに企画が通りにくかったりもするので、その場の投票で枠をゲットできる場は大きな刺激になる」。さまざまな部署の社員の投票というシステムも「編成マンの選び方と違い、『見てみたい』という一般視聴者の視点に近い。価値観の多様性を社内に広げていくことは大事なこと」と話す。

今回優勝したのは43歳の木村剛史ディレクター。かつて入社5年目で「トリビアの泉」を立ち上げたヒットメーカーだ。“フレッシュな手腕”とは対局の横綱プレゼンで会場を圧倒し、「複雑な気持ち。若手の芽を摘む形になってしまった」と頭を抱えた。プレゼン大会について「その場で結果が出て枠をもらえるという試みは入社以来なかったこと。いい若手も育っている中、立てるバッターボックスがあるのは大きな意味がある」と話す。

銀メダルは入社5年目の田中良樹ディレクター(27)。第1回目で後輩の千葉ディレクターに先を越されたことに「悔しい思いをした」という。今回、芸能人が高校に戻って青春を取り戻す「1日転校生!」で、入社以来初めて企画を通し、感激もひとしお。田中さんは「新しいことをやろうという今の風土は、入社のころにあこがれたフジテレビそのもの。民放3位の時に入社したが、自分の手でもういちど1位にしたい」と、現場の士気も上がってきた。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)