コロナ禍に押し出され、夏ドラマと放送延期の春ドラマが混在してややこしい“7月期ドラマ”。異例の8月スタートの作品群も出そろい、金融、学園、医療、怪談など、ジャンル多彩でカラフルな夏だ。「勝手にドラマ評」43弾。7月以降スタートした作品を、今回も単なるドラマおたくの立場から勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(深夜枠、シリーズものは除く)。

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「竜の道 二つの顔の復讐者」(C)フジテレビ
「竜の道 二つの顔の復讐者」(C)フジテレビ

◆「竜の道 二つの顔の復讐者」(フジテレビ、火曜9時)玉木宏/高橋一生

★★☆☆☆

両親を自殺に追い込まれた双子の兄弟。兄は裏社会から、弟はエリート官僚として表社会から復しゅうを誓う。両親が死に至るエピソードが弱く、敵が運送会社社長というのも歯ごたえなさすぎでは。今の2人なら簡単に刺せそうな相手に、修羅だ地獄だと大騒ぎ感がすごい。無関係な人を次々と手にかけている時点で大義がなく、イケメン競演の復しゅうファッションでは間口が狭いと感じる。肝心な時に「何も知らないピュアな妹」が登場するお約束。女を足かせ役にするドラマは一律苦手。今後はこの守られキャラが、無邪気な愛でどんどん話をかき回していく流れに。

火曜ドラマ「私の家政夫ナギサさん」(C)TBS
火曜ドラマ「私の家政夫ナギサさん」(C)TBS

◆「私の家政夫ナギサさん」(TBS、火曜10時)多部未華子/大森南朋

★★★★★

家に知らないおじさん家政夫がいた冒頭シーンが面白く、ドタバタすぎないコメディーが火曜枠に合う。「あなたならできる」。人の期待に応えて生きてきた製薬会社の優秀MR(営業担当)を多部未華子が魅力的に立ち上げ、28歳の手詰まりにナギサさんの家事力がそっと作用する。営業力でよそに負け、必死に巻き返しても報われなかった1話のリアル。多部ちゃんの悔し泣きに共感でき、汚部屋のある部分から「努力家だとすぐに分かった」というナギサさんの言葉にまた泣けた。2話からライバル男子とのラブコメになってあせったが、5話でナギサさんが元MRと判明し、また動きだした。部下ハルト君の深夜のショートドラマも面白い。

水曜ドラマ「私たちはどうかしている」(C)NTV
水曜ドラマ「私たちはどうかしている」(C)NTV

◆「私たちはどうかしている」(日本テレビ、水曜10時)浜辺美波/横浜流星

★★★☆☆

15年前、老舗和菓子店「光月庵」で起こった旦那様殺し。ぬれぎぬで母親を失った少女が成人し、真相を探るため御曹司と結婚する。会ったその日に「アンタ、俺と結婚しない?」という少女漫画な展開も、憎い相手を好きになっていく思考回路も実際「どうかしている」が、御曹司側にも何か事情を抱えた孤独がにじみ、不思議と無理がない。立場と狙いは違っても、和菓子への愛だけは共通している2人。敵だらけの光月庵の立て直しを軸に、ラブとサスペンスがどう展開するか。若おかみの奮闘記は昼ドラマ、血縁のドロドロ復しゅう劇は韓流ドラマ。ごちゃまぜな世界観を、浜辺美波と横浜流星がうまく引っ張ってくれそうな気もする。

木曜劇場「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(C)フジテレビ
木曜劇場「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(C)フジテレビ

◆「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(フジテレビ、木曜10時)石原さとみ/田中圭

★★★★☆

病院薬剤師の視点の医療ドラマ。お礼を言われるのは医師。「感謝されたいならこの仕事は向かない」という薬剤師たちの基本姿勢がかっこよく、1200の薬を扱う調剤室のすさまじい光景や、投薬から見える人間模様が新鮮。持病と闘う小学校教師(浅利陽介)を通じて、病院薬剤師とドラッグストアのそれぞれの正義を描いた3話は見応えがあった。全体的にベタな感動を演出しすぎでは。縁の下の理系職業は、フラジャイル(病理医)やラジハ(放射線技師)のようにロジカルに納得感を描かないと、まごころのスタンドプレーで終わってしまう。成田凌が動き出してストーリーに奥行きが出てきた。主人公の近くの欠かせない人を演じると田中圭は抜群に良い。

土曜ナイトドラマ「妖怪シェアハウス」(C)テレビ朝日
土曜ナイトドラマ「妖怪シェアハウス」(C)テレビ朝日

◆「妖怪シェアハウス」(テレビ朝日、土曜11時15分)小芝風花/松本まりか

★★★★☆

泣き寝入り人生で金を失い、妖怪が暮らすシェアハウスに拾われたダメOLの成長。尽くした男に裏切られた1話はお岩さん、職場でセクハラに遭う2話は皿屋敷のお菊さんなど、同じ境遇のキャラに尻をたたかれ悪党に立ち向かう。尽くしキャラを「重い、きしょい」と反撃されて超絶へこむお岩さん(松本まりか)、井戸から「お菊でーす!」とミニスカで登場するお菊さん(佐津川愛美)など、強キャラのぶっ飛びワールドが深夜枠に合う。江戸も令和も変わらない女性差別への訴えもしれっと盛り込み、「ただまじめに働きたいだけなのに」がその通りすぎて噴いた。紙芝居風の妖怪解説も気が利いていて、ポップな夏の怪談に。

日曜劇場「半沢直樹」(C)TBS
日曜劇場「半沢直樹」(C)TBS

◆「半沢直樹」(TBS、日曜9時)堺雅人/香川照之/上戸彩

★★★★☆

7年ぶりの続編で、ブレないテーストにクラクラ。子会社出向の半沢が親会社東京中央銀行とバトルに。時間外取引、逆買収、特許権奪還など、いつもの池井戸展開も、半沢のフィルターで見ると新鮮。大型買収案件でスケール感が増し、「最初の敵は自分自身」という説教もさっそうとしている。香川照之、市川猿之助ら、大声スキルにたけた歌舞伎勢の快刀乱麻。「おしまいdeath!」「死んでも嫌だねぇ!」。もはや様式美の大和田常務(香川)に爆笑し、決戦の役員会で半沢と手を組む第1部のラストもうまく着地。第2章は銀行に戻った半沢による帝国航空の再建。初入閣の国交相に江口のりこ登場で、ナイスキャスティングに胸躍る。

◆「親バカ青春白書」(日本テレビ、日曜10時半)ムロツヨシ/永野芽郁

★★☆☆☆

日テレ×福田雄一ワールドの最新作。娘が心配で一緒に大学生になった父親の再びの青春を描く。ムロツヨシら福田組キャストでギャグとおふざけを全力でやるお約束のテースト。SNSでは「福田色が薄い」との声も聞かれるが、同じテンションがしつこく続くのはちょっと飽きる。個人的には「アオイホノオ」あたりからのファンだが、ここ数年味が濃くなり過ぎて、信者ではないただのファンとしては店に入りづらくなってきた。最近のドラマは登場人物が多すぎるので、父娘と4人の学生に集中している設計は好感。「どんな状況でも普通でいられるやつがいちばんすごい」は胸に刺さるせりふだった。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)