【先週の言葉】「初夜のシーンで『抱いていいか』みたいな。なんじゃこりゃと思って(笑い)。テレビの前のおなごたちが泡を吹いて倒れるんじゃないかという、100%キュンキュンなせりふだなと」

NHK大河ドラマ「青天を衝く」(日曜午後8時)で、のちに主人公渋沢栄一(吉沢亮)の妻となる千代役の女優橋本愛さん(25)が、オンライン取材会で語った言葉です。自分の言葉で物語の魅力を生き生きと語り、どこをとっても見出しになる血の通った回答力に、リモート取材陣の挙手ボタンが殺到。明るく聡明(そうめい)な千代にはぴったりのキャスティングと感じました。

冒頭の発言は、「夫婦のシーンをどう演じているか」という質問に答えたもの。「少女マンガ味が強くなっている」とイメージをはっきりと語り、「おなごたちが泡を吹いて倒れるんじゃないか」「後ろから抱き締める、いわゆるバックハグにあこがれているおなごたちにはキュン死に度が高い」など、パワーフレーズをちりばめた見どころも分かりやすいです。

少女マンガなせりふに「なんじゃこりゃと思って」「なかなかこっぱずかしい」と照れ笑いする様子にも嫌みがないんですよね。千代の品格や「女性から思いを伝えるのははしたない」という幕末の女性環境をよく理解し、「抱き締めたいという思いを抑えているからこそあふれ出る感情が出たらいいな」とアプローチしています。

主演の吉沢亮さんの魅力もざっくばらんに表現。栄一が千代に告白するシーンを振り返り、「マスク着用のリハーサルでは目の精悍(せいかん)さが印象的でしたが、マスクを外して本番になると、いい意味でかっこ悪かったんですよ」とにっこり。吉沢さんの表情全体から告白の必死さが伝わってきたとし、「栄一さんの人間性をものすごく物語っていて、こういうところに千代はいとしさを感じていたんだなって」。

大河ドラマや朝ドラに関してはここ数年、折を見て出演者の取材会をセッティングして見どころをPRするのが流れですが、ぶっちゃけ、きまりきった話ばかり長い人など、さっぱり盛り上がらず記事化されないケースも多いんですよね。

そう考えると、リモート(それも取材者側の画面はオフ)であれだけ自然体に作品を語り、挙手ボタンの行列を作った橋本さんの発信力はかなりスペシャル。女優業以外にも、ポルノを含めて古い映画に造詣が深く、写真の分野でも活躍し、先ごろは音楽番組での「木綿のハンカチーフ」の歌声が話題になるなど、持ち前の感性と表現力に裏打ちされたものだと感じます。撮影が押し、役の扮装(ふんそう)にマスクという姿でリモートに飛び込んでくる忙しさでしたが、3度目の大河への思い、ビジネスと人徳の両立など、30分とは思えない凝縮の聞き応えでした。

そんな彼女が演じる千代は序盤から魅力的ですね。個人的には、論語の一節の意味が知りたくて兄の前へ進んだら「おなごが知ってどうする」とあしらわれる3話のくだりが印象に残ります。「おなごとて人だに。人として、物のことわりをちっとでも知っておきたいと思っただけです。それを知ってどうするなどとおっしゃるのは、兄さまの言葉とも思えねえ」。千代の芯の強さと勇気、素直さがよく分かり、この人が主人公とどう一時代を切り開いていくのか楽しみです。

物語は、3話で栄一の商才が覚醒したところ。橋本さんが言うところの「泡を吹いて倒れる」ほどの少女マンガ風味も今後気になるので、千代ファン目線で作品を楽しみたいと思います。【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)