なにげに今年いちばん見たかった舞台「家政夫のミタゾノTHE STAGE お寺座の怪人」(EXシアター六本木)を見てきました。生で見るミタゾノワールドは、舞台だからできる表現を大いに生かした痛快な見応え。テレビシリーズでなにげに骨太なチャレンジをしてきた“チーム・ミタゾノ”の、スキルと心意気に痛み入りました。

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主演松岡昌宏さんが演じるミタゾノのインパクト、家という限られた空間、演劇系の役者陣が多い「むすび家政婦紹介所」の風景など、もともと演劇向きと思われたコンテンツですが、舞台を広く使った登場シーンから“生のミタゾノ”の迫力が満載。おなじみのBGMとともに「わたくし、むすび家政婦紹介所から参りました、家政夫のミタゾノと申します」という、ドラマで見たアレが目の前で展開し、ファンとしてはいきなり心躍ります。

ミタゾノが今回派遣されるのは、人々の尊敬を集める古いお寺。次期住職の座をめぐる100万円の紛失事件と、寺のどこかにいるという仮面の怪人の謎に“のぞき見”で迫り、寺と家族に巣くう根深い汚れを大掃除していきます。

もはや、「お寺座の怪人」というサブタイトルだけで笑えるミタゾノマジック。本家をパロッた音楽も効いていて、ばかばかしいことをハイクオリティーでやる制作陣のセンスが隅々にありました。

制作発表会などでオープンになっている部分で言うと、のぞき見している様子が客席からでも分かるように、大画面スクリーンをうまく使っています。スカートを持ち上げて爆走する“ミタゾノ走り”も大迫力で演出され、松岡さんが自信を見せるのも納得です。

「時短料理」や「サビ落とし」など、唐突に出てくる家事情報がストーリーと絶妙にからむ妙味は、舞台版でも見どころのひとつ。私が見た時はレアな失敗バージョンがありましたが、「これが舞台というものでございます」とまったく動じない振る舞いがいかにもミタゾノで、客席も大いに沸きました。ドラマシリーズの世界観をキープしながら、舞台としてダイナミックな人間模様も描いていく松岡座長の快刀乱麻。こういう時間、空間を共有できるのも舞台の魅力と感じます。

今回の舞台化もそうですが、ミタゾノ制作陣って、なかなかのチャレンジを淡々とやっていたりするのがかっこいいんですよね。新型コロナの感染拡大でドラマ界が放送延期や中断に見舞われていた20年5月。リモート撮影で1時間の完全新作を作ってみせたのがミタゾノでした。

NHKがまだ分割画面で俳優に会話させるだけだった中、ミタゾノは“依頼人のパソコン画面”の中で「ミタゾノとのやりとり」「部下とのリモート会議」「愛人とのビデオ電話」の3場面を交錯させ、圧巻のストーリーを展開。ミタゾノののぞき見体質はPCでも発揮され、意外なITスキルで依頼人を崩壊に導く物語性は「神回」と大きな話題になりました。リモートだからこそできるシナリオを組み立て、お約束の家事情報もばっちり。その手際は、今回の舞台でも同様でした。

客席は超満員。ファンのハートをがっちりつかんでいる実感ゆえか、演じているレギュラー陣も楽しそう。スタンディングオベーションに松岡さんが「痛み入ります」といつものお辞儀をし、どこまでもミタゾノ。こちらこそ、生のミタゾノを楽しくのぞき見させてもらい、痛み入ります。

東京公演は27日で終了。12月3日から大阪・森ノ宮ピロティホールで。同4日の大千秋楽公演は全国の映画館でパブリックビューイングを開催。

◆「家政夫のミタゾノ」 16年、テレビ朝日金曜ナイトドラマ枠でスタートし、5シリーズを放送。謎の家政夫、三田園薫(松岡昌宏)の活躍を描く。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)