女優野際陽子さんの訃報が届いた。81歳だった。

 今から三十数年前、大学時代に野際さんの自宅マンションでアルバイトをしていた。都心から少し離れた高台にある「川口アパート」。作家・川口松太郎氏が建てた豪華マンションで、芸能人がたくさん住んでいた。川口松太郎氏と夫人の女優三益愛子。長男の川口浩、次男の亘、三男の厚、長女の川口晶。芸能一家が、それぞれ結婚して、その家族と住んでいた。管理会社の社長は、テレビ朝日系「水曜スペシャル」の隊長でおなじみの浩だった。他にも加藤和彦、安井かずみ夫妻、水谷良重(現・2代目八重子)などが住んでいた。

 仕事はホテルのロビーのようになったフロントの留守番。昼間勤務する管理のおじさんと午後5時に交代して、朝の8時まで。夜9時から朝7時までは、フロントを締めて、テレビを見ようが、寝ようがOK。大学の音楽サークルで歴代受け継がれてきたバイトで、バイト代は確か一晩、4500円。実に割りのいいバイトだった。芸能スキャンダルが起こると、今は亡き梨元勝リポーターが聞き込みにやって来たこともある。

 そこに野際さんと、当時の夫だった千葉真一が住んでいた。だが、野際さんの姿を見かけることはあっても、2年間のバイト期間中、千葉の姿を見かける事はなかった。当時、小学生だった、野際さんの娘で現在の女優真瀬樹里とは、ロビーの前のスペースで、たまに遊んだこともある。94年に真瀬がフジテレビのドラマ「2度目のウエディング・ベル」で女優デビュー、野際さんと共演した時に母娘を取材した。一緒に遊んでいたことを話すと驚いていた。

 94年に野際さんと千葉が離婚することになり、赤坂プリンスホテルでそろって会見した。22年間連れ添ったスター同士の離婚だから、聞くことは山ほどあった。変則的だったのは、会見がテレビカメラを入れてのものと、その後のテレビカメラなしのと、2回行われたことだった。

 ワイドショーの有名リポーターが、野際さんと千葉に質問を浴びせた後、カメラがないところで2人に疑問点をぶつけていった。テレビがある会見だと聞けないような細かい所まで、誠実に応えてくれた野際さんが懐かしい。

 野際さんはTBS貴島誠一郎プロデューサーの「ずっとあなたが好きだった」や「長男の嫁」などで、母親役ととしての新境地を開いた頃だった。当時、TBSは損失補てんや坂本弁護士問題などで大変だった頃だが、「それとドラマは別」ということで取材は、いつでもウエルカムだった。

 最近の野際さんは、なくなってしまったフジテレビ系の昼ドラの「花のれん」シリーズで、羽田美智子のしゅうとめ役を演じて、何回か制作発表にも行って話を聞いた。現在、放送中のテレビ朝日系「やすらぎの郷」(月~金曜午後0時30分)に野際さんが出演すると聞いて、再会を楽しみにしていたのだが、制作発表には現れなかった。スケジュールの都合と聞いたが、病と闘いながらのドラマ撮影だったという。

 野際さんは、自分の収録部分を消化してから亡くなった。きっちりとした野際さんらしい最後だった。冥福を祈りたい。