世界3大映画祭の1つ、第71回カンヌ映画祭(フランス)コンペティション部門で最高賞パルムドールを受賞した「万引き家族」(6月8日公開)をはじめ、是枝裕和監督(55)の映画5作品を連続でプロデュースした、フジテレビの松崎薫プロデューサーが28日、ニッカンスポーツコムなどの取材に応じた。

 同プロデューサーは「万引き家族」が、家族をテーマに描き続けてきた是枝監督にとって「家族から社会を見る」新境地を開いた作品だったこと、作品性がストレートに評価されたことが受賞の要因だと分析した。

 松崎プロデューサーは、97年の今村昌平監督の「うなぎ」以来、日本映画として21年ぶりのパルムドールを受賞した要因について「審査員が素直に見てくださったのだと思います。相性が良かった」と分析した。具体的には、審査委員長を務めたオーストラリアの女優ケイト・ブランシェットをはじめ、審査員9人のうち過半数の5人が女性だったことを挙げ「シネフィル(映画通)的な審査員が多かったら、ひねってとらえられたかも知れない。女性審査員が多かったことが幸いしたかも知れません」と説明した。

 「万引き家族」は、リリー・フランキーと安藤サクラ演じる夫婦を中心に、万引きなどの犯罪でしかつながれなかった家族を描いた。家族をテーマに映画を作り続けてきた是枝監督が、親が死亡したのを隠した家族が年金を不正に受給した詐欺事件に触れ、2016年に着想を得て前作「三度目の殺人」の公開前後に企画の提案があったという。

 松崎プロデューサーは、是枝監督がカンヌ映画祭ある視点部門に出品した16年の前々作「海よりもまだ深く」を世に送り出した段階で「家族ものは、やりきった感がある」と漏らしていたことを受けて、04年の同映画祭コンペ部門に出品し、柳楽優弥が男優賞を受賞した「誰も知らない」のような、社会性のある作品はどうかと提案したという。そこで是枝監督は「三度目の殺人」で長年、挑戦を考えていた初の法廷心理サスペンス映画を作り上げた。そして今回、「万引き家族」で「家族から社会を見る」という新たな切り口で家族を描いた。松崎プロデューサーは「理想的な作品だった」と振り返った。

 映画界でも最高の栄誉であるパルムドールを受賞した、是枝監督のどこがすごいのか? という問いに、松崎プロデューサーは「ひと言で言うと、才能」と言いつつ、2つのポイントを挙げた。

 (1)作品が変化すること 是枝監督は、もともとドキュメンタリー作家で、フジテレビでも91年にドキュメンタリー番組「NONFIX」で「しかし…福祉切り捨ての時代に」を制作した。「ドキュメンタリー作家なので、作っていく中から吸い取って脚本を作っていくので最初の脚本から編集の終わりまで作品が(どんどん深く)変化していきます」

 (2)「是枝マジック」と言われる編集の力

 かなりの量の撮影を行いつつも、そしゃくして、余計なものを切り取るのが見事で「万引き家族」では、リリーが号泣しているシーンを容赦なくカットした。「三度目の殺人」でも、主演の福山雅治が撮影前日に追加で渡され、何ページにもわたるセリフを覚えてきたシーンをカットしたという。「純粋に作品に向き合って仕上げられる。またプロデューサー的な感覚を持った監督で、プロデューサーいらずの人、とも思っています」

 是枝監督は、次回作をフランスで撮影することが決まっており、一部ではフランスの女優カトリーヌ・ドヌーブが主演するとも報じられている。松崎プロデューサーは「詳しいことは言えませんが、パルムドールを受賞したからではなく、元々、決まっていた話。洋画として撮るので、日本での公開はお手伝いする可能性はありますが、そこに我々は製作として入っていません」と説明した。

 その上で、同監督との今後について「何となく、ボンヤリと話しているテーマはありますが、具体的に、いつ撮りましょうということまでは話していません。監督は次の作品のことでお忙しいので、うまく、お互いの考えが合致し、機会があればお話しするかと…ゆるやかに構えています」と語った。【村上幸将】

 ◆松崎薫(まつざき・かおる)国際基督教大コミュニケーション学科卒業後、ソニーに入社し、ビデオパッケージの業務を担当。00年にフジテレビに編成局編成部に出向し、03年から同局映画事業局で洋画を担当。翌04年にフジテレビに転籍し、06年の「大奥」から邦画の製作に携わる。是枝監督の作品は、初めてプロデュースした13年「そして父になる」が、カンヌ映画祭コンペティション部門で審査員賞を受賞。15年「海街diary」も同部門、16年「海よりもまだ深く」は同映画祭ある視点部門、17年「三度目の殺人」はベネチア映画祭(イタリア)コンペティション部門に、それぞれ出品。プロデューサーとして、14年と17年にエランドール賞映画プロデューサー賞、16年に第35回藤本賞特別賞を受賞した。