阿部寛(54)主演のTBS系日曜劇場「下町ロケット」(日曜午後9時。初回は25分拡大)が14日、スタートする。阿部演じる佃航平が幾多の困難を乗り越え、ロケットを飛ばす夢をかなえた15年10月放送の前シリーズから3年をへての続編。第1話の試写を見た記者が、放送直前に見どころを紹介する。【村上幸将】

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15年12月20日放送の最終回の平均視聴率が、同年の民放連続ドラマで最高の22・3%、全10話の平均視聴率は18・6%を記録し、同年を代表するドラマとなった「下町ロケット」が、パワーアップして帰ってくる。阿部は、7日に都内で行われた完成披露試写会で「初日から皆さん、3年前と同じように全然、迷いなく出来るのは幸せなこと。監督を中心にパワーのある現場になっています」と、あうんの呼吸で進む撮影現場の様子を明かした。

前作では、佃が子どもの頃から夢見たロケットの打ち上げを、自ら開発したエンジンで実現したものの失敗し、宇宙科学開発機構を追われ父が残した下町の工場・佃製作所を継ぐところから物語が始まった。佃は資金繰りの圧迫、取引先からの取引中止宣告、ライバル企業から特許侵害で90億円の損害賠償を請求されるなどの試練を乗り越え、核となる部品全ての内製化を至上命令に純国産ロケット開発計画「スターダスト計画」を進める帝国重工に、バルブシステムの部品を供給するまでにこぎ着けた。さらに心臓弁膜症患者のための人工弁「ガウディ」の開発にも挑戦。ライバル会社の横やりにも負けず成功した。

前シリーズは、これでもかとばかりに降り掛かる困難に真っすぐにぶつかり、乗り越えていく佃らの姿が感動を呼んだが、新シリーズは第1話から佃製作所に最大の危機が訪れる。帝国重工の業績が悪化し、佃はともに事業を進めてきた宇宙航空部長の財前道生(吉川晃司)から、藤間秀樹社長(杉良太郎)の交代と同社長が陣頭指揮を執るロケット事業からの撤退の可能性が浮上したと告げられる。佃製作所は、収益はもちろん、社の信用を高め精神的支柱となっていた「ロケット品質」のブランドも崩壊しかねない状況に陥った。

追い打ちをかけるように、大口取引先の農機具メーカーのヤマタニ製作所から、トラクター向け小型エンジンの取引縮小を言い渡される。佃は、父親が倒れた経理部長の殿村直弘(立川談春)の実家を見舞い、米農家の父が使うトラクターが作業ムラを起こすと聞き、原因がトランスミッションにあると発見。ロケットのバルブシステムの技術を生かしたトランスミッションへの挑戦を決意する。

前シリーズの最終回で、佃が財前から「ロケットの次は人体か。すごいな、あなたは」と言われ「ロケットでは自分の夢をかなえることが出来ました。だからガウディでは、誰かの夢を応援したい。あの人工弁は、それだけの力があるんです」と答えるシーンがあった。ロケットから人体へと挑戦のテーマを変えた前シリーズをへた、新シリーズのサブタイトルは「宇宙から大地へ」だが、人体の次に挑むテーマの大地=田んぼのシーンを撮影した新潟県燕市ロケで、トラクターに乗った阿部の演技は、前シリーズ最終話の重要なシーンのセリフにも表れた、泥くさい佃の生き方そのもののようで胸を熱くさせられた。

阿部は観客と一緒に第1話の試写をチェックし「僕が出ていないシーンも拝見させていただいたんですけど、台本以上のものになっていた。寄り添うパワーというか、人が生きていく難しさ、強さがよりにじみ出ていて、見てホッとしました」と笑みを浮かべた。その言葉どおり、崖っぷちに立たされた佃製作所の面々の表情、動きを含めた熱量は前シリーズよりパワーアップしており、スクリーンにくぎ付けとなった。

佃製作所の面々を演じる俳優陣の中で、最もパワーアップしたと感じたのは、やはり前シリーズからの3年間で大ブレイクを果たした竹内涼真(25)だろう。竹内は劇中で佃製作所技術開発部の立花洋介を演じる。

立花は前シリーズでは新人で、開発に携わる「ガウディ」について語る中で涙を流すなど、初々しかった。今回、立花はトランスミッション事業に抜てきされるなど若手のエースに成長しており、演じる竹内を地でいくような役どころとなっている。その立花が第1話の中で激情をあらわにするシーンは必見だ。

佃製作所が参加するバルブのコンペを開く、トランスミッションを手がけるベンチャー企業「ギアゴースト」の伊丹大社長役の尾上菊之助と島津裕副社長役のイモトアヤコをはじめ、新キャストも印象的な面々がそろった。中でも佃製作所からトラクターエンジンの取引を奪おうとするダイダロスの重田登志行社長役の古舘伊知郎、ロケット事業の撤退を狙う帝国重工の次期社長候補・的場俊一役の神田正輝は、試写後、腹の底に残るほどの嫌らしい敵ぶりだ。

また佃製作所でトランスミッション事業の中心を任される軽部真樹男役の徳重聡の無気力ぶりと、立花に対する嫌みな態度は、これまでの徳重のイメージを大きく覆すものだ。男らしさを前面に押し出す、老舗石原プロモーションの神田、徳重が“悪役”を演じるところも、見どころだろう。

阿部は完成披露試写会の最後に、力強く宣言した。

阿部 3年たって、また帰ってくることが出来て非常にうれしく思っています。3年、たまっていた思いを、この作品に全力でぶつけたいと1話を見て、さらに思いました。前回は「町工場のおっさんが夢を見て、何が悪いんだ」という涙のセリフから始まりました。今回、それを引き継いで農業、大地の方を情熱を持って取り組んでいます。撮影は非常に大変で、台風が来たりした中、撮っていますけどすばらしい映像が取れています。全12話までやります。やり切ります!!

阿部の決意の言葉を聞き、試写室を出た時、「ドラマから生きる力をもらえた」と思えた。3年前を超える、記録的なヒットを期待せずにはいられない。