NEWS加藤シゲアキ(34)が第164回直木賞にノミネートされ、先日の選考会で受賞を逃した。

候補入りと聞き、アイドルで、歌って踊れて作家の才まで、天は彼に何物を与えるのかと思ってしまったが、それはとても失礼なことだったとのちに反省した。本人の努力の結果であり、ノミネートを受けた取材会での加藤の振る舞いは、当たり前に作家だった。

12年1月に「ピンクとグレー」で作家デビュー。3年ぶり、5作目の小説で初の候補入りとなった。取材では、執筆を始めた当初から「アイドルが書いた」と見られることに葛藤があったと振り返り「きっと歓迎されないだろうと思っていた。そのステレオタイプをどうブレークスルーできるか、頭の片隅にあった」。 20代では「青春」や「恋愛」をテーマに選びたくなかったとも話した。ジャニーズの立場でそれを描けば売り上げにつながることも想像できたが、当時は「イメージをどう裏切るか」。だから、20代では描かなかったという。

反して、今作では恋愛を含む高校生の青春群像劇に真正面から向き合った。執筆を続ける間に出版社からはきちんと作家として扱われるようになり、加藤自身も「作家であることが当たり前になった」。経験と自信は心境の変化につながり「30代に入って、そんなに肩肘張らなくてもいいんじゃないか。ジャニーズだからとか関係なく、今描きたいことを描いていいんじゃないかと。かたくなになっていたものが取っ払えた」と話した。

もちろん、加藤がタレントであることは切っても切り離せない。物語のキーとして登場するマッチングアプリは「番組内の企画で知ったもの」、作中で描かれる河川敷のようすは「ロケの合間に見た光景」という。タレントとしての仕事が一種の取材活動になっており「探しに行っても見つけられないような出会いが、偶発的に体験できる。専業作家になるとそういう出会いはなくなる。恵まれた環境だと思う」と語った。

アイドルの自分と作家の自分に境界はなく、意識の上では「歌って踊る日、演じる日、バラエティーでトークする日。そこに、僕は書く日があるだけ。たくさんあるチャンネルの1つ」。執筆は休日以外にも行い、仕事の合間や移動時間、ライブ前日にホテル入りするなどして時間を捻出するという。「書くことは苦しいけれど、書くなと言われることの方が苦しくなっている。どこへ行っても、『これは物語になる』という脳になっている。物語を作ることがやめられなくなっている」。書くことが生活の一部になっているのだと感じられた。

文学賞を経由せず、ジャニーズとして小説家デビューしたことに引け目を感じていたというが、あらゆる色眼鏡と戦いながら書き続けることも相当な胆力が必要だろう。加藤が小説に向き合ってきた長い時間を想像して、頭が下がる思いだった。【遠藤尚子】