Kiroroの金城綾乃(43)が1日、福島県いわき市の「いわき震災伝承みらい館」を訪問し、東日本大震災の津波被害からよみがえった「奇跡のピアノ」と、約1年ぶりに再会した。金城が同ピアノを題材に作詞作曲した新曲「奇跡のピアノ」(10日配信スタート)の楽曲誕生も報告し、同曲を初歌唱した。

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「奇跡のピアノ」を歌唱した金城の目から、大粒の涙があふれた。「思いを寄せすぎると、いろんな風景が浮かんできてしまう。家族を失われた方の気持ちに寄り添う分だけ、痛みや悲しみがやってくる。私にとっても、パワーがいる曲になりました」。

金城とこのピアノには、縁があった。震災直前に行われた、いわき市立豊間中学校の卒業式で生徒が歌ったのが、Kiroroが98年にリリースした楽曲「未来へ」。そして昨年1月、那覇市で開催されたコンサートで、観客として訪れた金城が、そのピアノに実際に触れたことが楽曲制作のきっかけとなった。

その時のピアノの感触が頭から離れなかった。「私の中で、ずっと思いが残っていて、ある時、その思いがあふれて、この曲が生まれた。私にとっても、すごく不思議な経験でした。今日はこの曲をみなさんに披露することができて、うれしく思います」と話した。

ピアノの音色に変化があったという。1年前の「こもっていて、重たい感じ」から、再会したこの日は「思いを込めた分、鳴ってくれるという感覚でした。ピアノがものすごく生きている、興奮する感じです。だから、今日はすごい気持ちよかったです」。

楽曲制作では、ピアノと出会った時の衝撃をそのまま詰め込んだ。「自分の中に生まれた衝撃や、重たく感じたものが、歌詞になっている。そうすると、ピアノの周りに子どもたちがたくさんいる絵が浮かんできました」。被災地は復興に向けて歩んでいるが、隠れた部分も多い。印象に残っている歌詞には「見えているものが全てじゃないから 隠れて見えない大切なものは何?」を挙げた。

11日で、震災から10年を迎える。「この曲が、震災のことを考えるきっかけになったらいいなと思います。この曲を弾く度に、命のことを考えたり、震災だけでなく、日々の大切さ、毎日の出来事を伝えることができるのかなと思います。たくさんの方に聞いてもらって、『みんなと過ごせている日々が大切なんだよ』と伝えていけたらと思っています」と、力を込めた。【佐藤勝亮】

◆奇跡のピアノ 福島県いわき市の豊間中学校にあったグランドピアノ。11年の東日本大震災による津波被害を受け、再生不可能と思われたが、市内の調律師・遠藤洋さんの懸命な修理によってよみがえったことから、そう呼ばれるようになった。

◆金城綾乃(きんじょう・あやの)1977年(昭52)8月15日、沖縄県読谷村生まれ。同じ高校に通っていた玉城千春と95年、Kiroroを結成。98年1月「長い間」でメジャーデビュー。Kiroroとして「未来へ」「BestFriend」など多くのヒット曲を歌い「NHK紅白歌合戦」に3回出場。99年9月ソロデビュー。現在は3人の子の母として、沖縄で生活しながら音楽活動を行っている。血液型AB。