近藤真彦(56)が4月30日に、40年以上所属したジャニーズ事務所を退所した。週刊誌で報じられた25歳年下の女性との不倫問題に、“長男”としてのけじめをつけた形となった。ジャニーズ事務所担当として長い間、近藤を取材してきた記者には当然だと思う半面、残念という矛盾する思いも正直ある。

ジャニーズ事務所の長男という存在感を示した1例が、10年の第52回日本レコード大賞で最優秀歌唱賞を獲得したことだ。近藤はデビュー30周年を迎えていた。その記念曲「心 ざんばら」は「おふくろさん」(森進一)で知られる故川内康範氏が近藤に歌わせたいと作詞した。大切な人を失った男の、鬼気迫る心情がつづられていた。

ジャニーズ事務所は長らくレコ大の出演を辞退していた。かつては近藤が「愚か者」(87年)で、光GENJIが「パラダイス銀河」(88年)で大賞を獲得するなど、積極的に出演していた時期はあった。しかしSMAP、TOKIO、V6、嵐など数多くの人気グループを抱え、「同じ事務所のグループ同士で賞を競わせたくない」という理由で辞退するようになっていたのだ。

「心 ざんばら」の近藤の歌唱は高く評価されていた。レコ大サイドは「近藤は選ばれても出ないだろう」という認識だったが、ジャニーズ事務所は近藤の出演をOKした。理由は、歌謡界大全盛時にデビューした近藤は若いグループとは違い、レコ大に育ててもらった経緯があること。そして事務所を長年支えてきた長男坊としての功績も意識してOKした。ジャニーズ勢の20年ぶりのレコ大出演が実現した。

近藤は30周年の節目に最優秀歌唱賞を獲得。最優秀新人賞(「ギンギラギンにさりげなく」=81年)、レコード大賞(「愚か者」=87年)も獲得しており、レコ大史上5人目(都はるみ、細川たかし、北島三郎、氷川きよし)の3冠を達成したのだ。ジャニーズ事務所はこれ以後、再びレコ大は辞退している。

ジャニーズ事務所を退所して、仕事の比重はしばらくは監督を務める自動車レースが大きくなるだろう。かつて私の取材にこう話したことがあった。「芸能界は刺激と魅力があるが、どっぷりつかっているとマヒしてしまう。僕にはパッと抜けられるレースの世界がある。違う世界で僕にとっては常に新鮮な往復だ。最後まであきらめずアクセルを踏み続ける気持ちは、芸能人としての自信につながっている」。

長男という肩書を失い、往復する場も狭まった近藤は、これから何に向かってアクセルを踏み続けるのだろうか。【笹森文彦】