「眠狂四郎」「古畑任三郎」などの人気ドラマシリーズで知られる俳優田村正和(たむら・まさかず)さんが4月3日に都内の病院で、心不全のため亡くなった。77歳だった。

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浮世離れした人だった。取材の機会も少なかった。

TBS系連ドラ「パパはニュースキャスター」に主演中の87年、カメラマン同行で楽屋取材を許されたことがあった。畳敷きに椅子を置き、鏡に向かっていた田村さんが椅子に座ったまま、くるりとこちらを向いた。

「そこへどうぞ」。指示通りの位置で畳に並んで正座する。お白州の奉行と罪人のような位置関係である。スタッフにコーヒーを注文した田村さんは「あなた方は?」と気を使う。「では、コーヒーを」。カメラマンも「私も」と同じものを頼んで取材が始まった。

質問をしてから答えまでには間が空く。実際は数秒なのだろうが、何分にも感じた。そっと見上げて様子をうかがうと、右手の親指と人さし指であごを挟んでいる。考えているのだろうが、怒っているように見えた。話し方はあの古畑任三郎そのままである。答えはしっかりしていた。父・阪東妻三郎さんに「丹下左膳」の扮装(ふんそう)を教わった話までしてくれた。

親しかった女性誌の記者にこの話をすると、彼も同様の「お白州体験」をしていた。1つ違ったのは、最初の飲みものの注文で、同行したカメラマンが「私も」と言った時。田村さんが「あなたは紅茶だ」と譲らなかったこと。理由を聞く空気ではなかったそうだ。女性誌カメラマンはなぜ紅茶だったのか。

あの不思議で、他にないオーラとともに答のないこの「謎掛け」を思い出す。【相原斎】

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