人気テレビシリーズ「スパイ大作戦」(67年~)に主演したピーター・グレイブスは、日本語版を吹き替えた若山弦蔵さんと対面して、その声を低いではなく「深い」と評した。

「ローン・レンジャー」(58年)を皮切りに「モーガン警部」「バークにまかせろ」、そして「スパイ大作戦」と米国発の人気ドラマの主人公を次々に担当。「レディー・キラー・ボイス」と呼ばれた若山さんの吹き替えは確かな技術に支えられていた。

「鬼警部アイアンサイド」(67年~)では長セリフをよどみなく、口の動きだけでなく、息遣いまで「再現」して話題になった。若山さんは「声を合わせるのではなく息を合わせるんだ」とそのテクニックの裏側を明かした。声優やナレーター仲間や後輩がこぞって「特別な存在」と認め、「ローハイド」で知られる仲村秀生さん(14年79歳没)は「ずばぬけてプロだ。ギャラをもらって申し訳ないが、彼と共演すると大変アテレコの勉強になりました」と振り返っている。

北海道札幌南高校2年在学中にNHK主催の朗読研究会に入り、そのまま同局の放送劇団に採用。まだ、専業としては確立されていなかった「声優業」に誇りを持っていた。「日本語として不自然なセリフにも疑問を持たず、台本通りにしかしゃべらない連中が多くて、ものすごく腹立たしかった」と、片手間で吹き込みに参加した劇団俳優たちへの憤りも後に明かしている。「隣からへたな声が聞こえてきたらやりにくい」と単独で収録を行うことも多かった。

アニメーション作品がほとんど無いのは、絵が完成する前に声を入れることに抵抗があったからだという。どこまでも「プロ」を貫く、他にない人だった。【相原斎】