「早く見ていただきたい。こんなに胸が高鳴る作品は本当に、本当に久しぶりです」

「この作品に関わる、全ての人が好きすぎて…。こんな感情を抱かせていただけた、この作品に心から感謝しています」

作品への愛が、ほとばしるコメントは、市原隼人(34)が7日に都内で行われた主演ドラマ「おいしい給食 season2」制作発表記者会見で口にしたものだ。市原のような人気俳優が、あまたある出演作の中の1つに、ここまで愛情あふれるコメントをすることは、そうそう、ないだろう。

「おいしい給食」は、19年10月期に全10話放送され、20年3月には映画「劇場版 おいしい給食 Final Battle」も公開された。連続ドラマとして2年ぶりとなる続編「-season2」の制作発表記者会見でも、2本目の映画化(22年公開予定)の決定を発表した。放送局は、地上波の民放キー局ではなくテレビ神奈川、チバテレビ、TOKYO MXといった独立系のUHF局やBS12トゥエルビの上、初回の放送日もバラバラ。1話の尺も30分弱と決して大規模な作品ではないが、根強いファンは多く、それが連ドラ第2期と2本目の映画製作につながったことは間違いないだろう。

この作品の魅力は、市原演じる主人公の中学教師・甘利田幸男(あまりだ・ゆきお)の濃すぎるキャラクターと、佐藤大志(15)演じる生徒・神野ゴウが、給食をおいしく食べるという、その一点に知恵を絞り、給食の時間に火花を散らせるコミカルながら緊迫感のある戦いにある。甘利田は生徒に厳しく接する厳格な教師だが、母の作る食事がまずく給食に至福の喜びを感じており毎日、頭の中には給食のことしかない。毎朝、献立を執拗(しつよう)に確認して万全を期しているが、そのことを学校内では、ひた隠しにしている。一方、神野は、給食で出された調味料を別の日の献立に加えたり、自宅からグッズを持参するなどして給食のおいしさを追求する、給食マニアだ。

甘利田は、給食の最中、うまさに身もだえし、歓喜のあまり踊り出すこともある。ただ、その視線の先で、想像を超える創意工夫で給食をバージョンアップした上で淡々と、しかも得意げに食する神野を目の当たりにした瞬間、激しくショックを受けて床に倒れ込んだり、教卓の上で平均台で演技を披露する新体操選手顔負けのポーズを取る。2人の“給食バトル”は激しく、ある種、荒唐無稽ともいえるが、市原の突き抜けた芝居と、対照的で上から目線でもある淡々とした佐藤のたたずまいが笑いを呼び、話題となった。

「-season2」の舞台は20年の映画の2年後で、前作で勤務していた常節(とこぶし)中から黍名子(きびなご)中に転勤した甘利田を描く。市原は「作品を好いてくださり、ファンになってくださった、お客さまのたまものです。その気持ちに恩返ししたい思い…その一心だけで現場に立っていました」とファンに感謝した。その上で「撮影初日の前日は、全く眠れなかったです。なかなか、ないんですけども…それほどキャラクターが強烈で、自分自身が、つぶされそうになっていましたね」と、甘利田という役を演じるには、並外れた熱量が必要だと語った。

そして、甘利田という突き抜けたキャラクターに、俳優業の本質を見ていることも吐露した。

「正直、甘利田を見られることが、すごく恥ずかしいですが、役者の職業というものの理にかなっていまして。我々は笑わせるのではなく、笑われる職業だと思っております。給食が好きすぎて翻弄(ほんろう)されながらも一生懸命、生きている甘利田のこっけいな姿を、ぜひ楽しんでいただきたいです」

既に一部で放送された第1話「餃子とわかめと好敵手」を見た。甘利田は、わかめご飯を一口、食べた瞬間、体を震わせ恍惚(こうこつ)の表情を浮かべ、揚げギョーザのうまさに身もだえしつつも、生徒に見られていないか教室を見回すなど、こっけいな動きは前作から、さらにパワーアップしていた。さらに帰宅の道すがら、駄菓子屋での買い食いに至福の時を見いだす、新たな一面も描かれた。生徒が駄菓子屋から引き揚げるのを見届け、潜んでいた物影から身を乗り出して向かおうとしたもののガードレールにぶつかり、1回転して道路に転げ落ちる甘利田など、市原は文字どおり体を張って演じている。

そこまで演技を突き詰める裏にある真意も、市原は熱く語った。

「いろいろな作品に関わってきたんですけれども、群を抜いてハードな現場でした。原作も何もない、0から始まった作品ですから。踊るなんて、台本に書いていないんですよ。(体を)ぶつけるなんて、何も書いていないんですけども…台本にないものを、どれだけ生み出せるか。その先には、お客さまに楽しんでいただきたい、笑っていただきたい、肩の力を抜いていただきたい。やっぱり、給食という初めての会食(をテーマにした作品)の中で、生まれたばかりの子供から100歳を超えるご年配の方まで、どうしたら楽しんでいただけるか。全ての大衆に楽しんでいただけるエンターテインメントを目指していましたので、ぜひ、それが届いて欲しいという一心で演じていました」

コロナ禍以降、給食が休止されたり、継続したとしても生徒には黙食が求められるなど、学校給食のあり方も変容を余儀なくされている。市原は、そんな昨今の情勢について意見を求められると「やっぱり、1人で食べるよりも、誰かと食べることで、よりおいしくなったり、その時間を共有することで楽しくなったり…それは、いつまでも忘れないでいただきたいです。何が正解か分からないんですけど、何かを一生懸命、楽しもうする気持ち、人に寄り添おうという気持ちに、ブレーキがかからない世の中であって欲しいと思います」と持論を展開した。

34歳の市原にとって「おいしい給食」は、きっと30代でつかんだ、宝物のような作品…新たな代表作と言っても、過言ではないだろう。「-season2」第1話の終盤には、常節中から黍名子中に転校してきた神野との遭遇が描かれる。ずいぶんと身長が伸び、声変わりもした神野との“給食バトル”のレベルアップも期待できる。「おいしい給食」で躍動する市原を1度、見て欲しい。期待は裏切らないだろう。【村上幸将】