宝塚歌劇花組公演「忠臣蔵ファンタジー『元禄バロックロック』」「The Fascination! -花組誕生100周年 そして未来へ-」は、トップ柚香光が、2人目となる相手娘役に迎えた星風まどかとの新コンビ本拠地お披露目作。独自のアイデアが光る芝居と花組100年をオマージュするショーの2本立て。芝居演出の谷貴矢氏、ショーの中村一徳氏ともども、新コンビが放つ熱量に感服している。兵庫・宝塚大劇場で12月13日まで。東京宝塚劇場は来年1月2日~2月6日。

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劇団誕生から7年後、初の花組公演が上演されて100年。「ダンスの花組」を継承する柚香、星風の“ダンサー・コンビ”が新生花組をけん引する。

芝居は「忠臣蔵」をもとにしたファンタジー作。舞台も江戸ならぬエドで、柚香は時計職人クロノスケにふんする。元赤穂藩士だが、時を戻すことで、悲劇的な運命を動かそうとする斬新な展開だ。

演出の谷貴矢氏は、昨年のコロナ禍で公演中止を経験した花組だけに「ハッピーエンド」にすべく、題材を探していたという。

「普通にラブコメ風も考えたんですが、ほど遠い題材を主役の力でハッピーエンドにねじ曲げる作品を作れたら柚香の魅力が出るかな、と。花組100周年なら、花を題材にしたミュージカル…元禄時代の百花繚乱(りょうらん)…ならば時期的にも忠臣蔵で、と」

谷氏によると、柚香、星風への完全なあて書きで、タイトルの「バロックロック」が浮かび、「クロック=時計」にひっかけて、脚本を進めていったそうだ。

悲劇をハッピーエンドに“ねじ曲げる力”。新コンビの熱量は、谷氏の期待以上だった。「本人の中から出てくる明るさ…と言うと、単純なんですけど、組子もお客様も、夢を見たくなっちゃうような力はすごい」と舌を巻く。

稽古場でも日々、脚本やセリフの言い回しを変え、柚香からの発案も多かったという。柚香が元赤穂藩士にふんし、星風がコウズケノスケの娘キラにふんした芝居で、柚香が星風を呼ぶ場合、当初の脚本には「なあ」「おまえ」「君」などと記していたが、柚香から「キラと呼びたい」と提案があった。劇中「きらめき」にひっかけ、名前をほめる場面があり、そこからのアイデアだった。

「稽古場でやってみたら、柚香の『キラ』は1回1回、呼び方が違い、それだけで明るい方向へ転換していくような刺激があった。(柚香の)力でハッピーな方向へ深まったような気がしました」

柚香の放つエネルギーが花組全体へ行き渡っていく様を感じていたと振り返る。花組100年を記念したショーを担った中村一徳氏も、パワフルさに衝撃を受けたと明かした。

「ショーでも芝居でも、(主演ゆえに)一番覚える量が多く、一番ハードなことをやっている。通し稽古が終われば、一番しんどいはずなのに、休憩せず、下級生を指導し、教えていた。踊りひとつ、気づいたことを研1(1年目)までつかまえて…。女役(娘役)にも」

スターシステムの宝塚では、原則としてトップや、トップコンビの個性で上演作が決まることが多い。主演=トップが公演の成否すべての責を負うと言っても過言ではない。組子約80人を従えたその頂点。重責は想像を絶する。中村氏は「舞台でのかっこよさは、彼女の持っている純粋で、ひたむきさゆえなんだと、すごく印象に残りました」と話す。

19年11月のトップ就任から丸2年。成熟期に入っていくリーダーは、新たな相手役、星風を迎え、進化を続ける。その新コンビの相性も良さそうだ。

谷氏は「本当におもしろい」と言う。今作では、稽古場の段階から「同じ事をしないで。1回1回、その場で感じた動きをし、自由に振る舞って」と伝えたところ、「見事にいま、舞台上でも毎日、自由すぎて(笑い)。でも2人ともちゃんと合わせている。本当にすごい」。

舞台は生もの-の言葉をまさに実践する新コンビだ。中村氏も続く。

「彼女(柚香)は(稽古開始当初は)まず内面で、どれだけ自分に落とし込んでいくか、という努力をする人。自分が納得し、消化した上で表現し、皆に(ヒントを)与える。星風もそれを受け止め、どう返していくか-と。1回1回キャッチボールをして、2人がすごく引っ張っている」

中村氏が言う「柚香の自分に落とし込む作業」を谷氏が“解説”した。

「毎日、『これはどう言えば、れいちゃん(柚香)に納得してもらえるのか』と考えながら稽古場へ行く。とくに稽古の前半は大変難しかった。でも、その『難しい』は演出家にとって、うれしいことなんです。生半可なことでは納得してくれない。そのやりとりがめちゃくちゃおもしろかった。繊細で、こだわりがあり、とてもおもしろかったですね」

スマートで舞台映えするルックス、下級生時代から舞台の端にいてもオーラを放っていた柚香。圧倒的なダンスの技量でもファンを魅了し、どんなに踊っても息が上がらない“タフネスぶり”に、見てきた我々も感心させられてきた。

娘役ながら、存在感をアピールできる同じくダンサーでもある星風も同じ。その2人が率いる新生花組の本拠初作品のショーが花組100周年記念作という巡り合わせは、オールドファンの心もくすぐる。

ダンスの名手として鳴らした大浦みずきさん(故人)が花組トップ時代の「フォーエバー!タカラヅカ」(88年)をオマージュした場面は注目のひとつ。ピアノファンタジーを柚香、星風が華麗に踊る。

「(ピアノ-は)花組を代表する1つの場面ですが、あまり再演されていない。ビデオで大浦さんの姿や、安寿さんらを見て、初めて稽古場に来た時、今の柚香さん、星風さんは決してコピーではなく、(当時と)違うのがいいなと思った」と中村氏は言う。

花組生として、ダンサーとしての系譜。「育った年代、感性も違うので。今思うままに合わせた方が、かえって歴史がつながる」と考え、新コンビの個性、技量に委ねたという。

花組は前作で、前トップ娘役の華優希とともに花組一筋のスターだった瀬戸かずやらが退団。新生となった今、柚香と同期で高いダンス力を誇る水美舞斗をはじめ、華やかなオーラを放つ永久輝せあ、進境著しい聖乃あすからが場面を持ち、トップを支える。

熱量高い、花組伝統を受け継ぐ新コンビが、1世紀を区切りに新たな一歩を花組史に刻んでいく。【宝塚歌劇担当・村上久美子】