今年3月に行われた米アカデミー賞授賞式でコメディアンのクリス・ロックに平手打ちして物議を醸した米俳優ウィル・スミス(54)が28日、トーク番組に出演し、事件以来初となる表舞台への復帰を果たした。

妻の容姿をジョークのネタにされたことに激高し、生放送中のステージに乱入してロックをビンタしたスミスは、その直後に主演男優賞を受賞し、世界中に衝撃を与えた。

事件後、主催する映画芸術科学アカデミーの会員を自ら辞任し、授賞式を含むアカデミー関連のイベントへの出演を今後10年禁じられる処分も受けた。その後は動画を公開して騒動についてロックに謝罪したもののこれまでテレビインタビューには応じず、沈黙を貫いてきた。しかし、来月9日にアップルTV+で新作映画「自由への道」が配信されるタイミングに合わせ、宣伝活動を行うため、本格復帰する運びとなった。

コメディアンのトレバー・ノアがホストを務めるトーク番組「デイリー・ショー」に出演したスミスは、オスカーでの騒動について話を振られると、「最悪の夜だった。多くのニュアンスがあり、とても複雑だ。でも、結局はキレたんだ」と振り返った。「あの夜は、あることを抱えていた。それが自分の行動を正当化するものではないことは分かっている」と明かしたが、何を抱えていたのかには言及しなかった。

「自由への道」は今年の授賞式で主演男優賞を受賞した「キング・リチャード」以来となる主演作で、1800年代の米南部を舞台に奴隷から逃れた黒人の実話を基にした物語。事件を受けて出禁処分を受けたスミスだが、候補入りする資格は剥奪されていないため、ルール上は来年のアカデミー賞でも主演男優賞候補に名を連ねることはできる。

スミスは別のインタビューで、「自分が出演する作品を見る心の準備ができていない人がいても、その気持ちを間違いなく尊重する」と述べており、事件の影響で作品をボイコットする人への理解も示している。ファンが受け入れられないは当然だと話す一方、自身の行動によってチームが不当な扱いを受けないことを願っているとも語り、世間の批判がこの作品に向かって欲しくないと複雑な思いも明かしている。(ロサンゼルス=千歳香奈子通信員)