若者に人気のSNS、TikTokで昨年大きなインパクトを残したのが7人組アイドルグループ、FRUITS ZIPPERだ。同4月リリースのセカンドシングル「わたしの一番かわいいところ」はキャッチーな音楽とダンスが話題を呼び、再生回数6億回超え。そんなメンバーたちをプロデュースするのが、自身も元アイドルの経歴を持つ木村ミサ氏(32)。「原宿から世界へ」をスローガンに突き進むグループを支える彼女に、今後の展望などを聞いた。

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FRUITS ZIPPERは、所属する芸能事務所、アソビシステムが手がけるアイドル文化を世界へ発信していく新プロジェクト「KAWAII LAB.」の第2弾グループとして昨年誕生した。第1弾のIDOLATERには別プロデューサーがついており、木村氏の関わりは元アイドルの経験を生かしてパフォーマンス面でアドバイスを送る程度。メンバー選定に始まり、楽曲制作や衣装など細部までプロデュースするのは、FRUITS ZIPPERが初めてだった。

木村 IDOLATERに続く新しいグループを作りたいということで「加速度をかけてやっていきたい」という話がLAB内で出ていました。FRUITS ZIPPERはアイドル経験者と未経験者が半々くらいです。加速するためには経験者の知恵やパフォーマンス力も必要ですし、私自身もアイドル好きで、生歌などのパフォーマンス力がちゃんとしているアイドルを作りたいという思いがあったので、それを最低限としてグループ作りを始めました。

20年春から動きだし、オーディションなども行った。しかし、しっくりくるメンバーがおらず、採用はゼロ。知人の紹介などから人材を探し、木村氏や事務所の社長らが面談を行って現在の7人を決定した。21年12月のことだった。

木村 共通点は、アイドルとしてしっかりやりたいという意志があること。やる気がある子を選びました。個性はそれぞれあって、性格や趣味はバラバラです。同じクラスにいたら絶対一緒になってないだろうなという。でも「世界に行くぞ」という目標は同じなので団結してできていると思います。

そんな中で誕生したFRUITS ZIPPERには、楽曲制作など細部まで木村氏のアイドル作りのエッセンスが表現されている。リーダーやセンターは置かず、全員が横一線。衣装にもこだわっている。

木村 今は衣装が3つあって、ワンマンライブがある度に増えていく感じですね。最初は手探りで作っていて、1着目は(自身が所属していた)むすびズムの衣装を作ってくださっていたMIYANISHIYAMAさんにお願いしました。もうひとつの制服っぽい衣装は、ののやまあきさんという方に作っていただきました。私が普段見ていて、作られている衣装がきれいだと思っていたのが理由でした。

依頼先はひとつに絞らない。最新の衣装はAKB48の衣装製作で有名なオサレカンパニーにお願いしたという。

木村 ひとつのものに固執しないというか、いろんな面を出していきたいと思っていた部分がありました。オサレさんは48系で有名で「1度着てみたい」というメンバーの夢もかなえてあげたいという思いもありました。2月からのツアーで着る衣装もオサレさんに依頼しています。

デビュー1年目となった2022年。木村氏の中では「FRUITS ZIPPERの年だったと評価してもらえるような1年になったらいいな」という淡い願望はあった。予想を早々に超える出来事はすぐに起こる。同4月リリースのセカンドシングル「わたしの一番かわいいところ」がTikTokを中心に急速に“バズり”始めた。

木村 「わたしの一番かわいいところ」はお披露目ライブでみせた5曲の中の1曲で、まずはその5曲で頑張ろうということで始まっていました。中には「RADIO GALAXY」という曲調がコロコロ変わるグループの代表的な楽曲があったり、王道系、かっこいい系とさまざまで、「わたかわ」(わたしの一番かわいいところ)は5曲の中だと“かわいい”に振り切っている楽曲でした

もちろんバズらせたい気持ちはあった。しかし、それは「アーティストならみんな同じ思いだと思います」と気持ちを代弁する。若手グループがよく行う「対バン」形式のライブがコロナ禍で減少しており、SNSの重要性をより強く感じていたタイミングでもあった。

木村 アイドルをやっていた頃からSNSの重要性は感じていました。「わたかわ」はバズる前からメンバーがSNSの投稿を頑張ってくれていましたし、デビューしてからの蓄積の流れとリリースのタイミングが合いました。リリース序盤でインフルエンサーが音源を使ってくれて1日で再生回数が100増えたりして「また増えたよ」って話したり。ダンスや共感性なども要因だと思いますが、いろんなことが合わさって再生回数6億回超えという結果になったのだと思っています。スピード感あるグループにしたいと思っていましたけど、ここまでとは思っていなかった部分はあるので驚いています。

デビュー直後の“大バズり”も追い風に、夏場以降はテレビ出演や取材などの仕事も増えた。

木村 年末に(カウントダウンイベントで)台湾に行けたり、雑誌の表紙を飾ったり。駆け抜けた1年だったというか、振り返っている時間がないぐらい走り抜けた1年だったと思います。最初は知ってもらうためにライブを多めに入れていて、そこに「わたかわ」のバズりがきたので、メディアの仕事が増えたり、余計にめまぐるしくなってしまって。メンバーには負担をかけてしまって申し訳なかったなと思っています。

昨年大みそかに向かった台湾でのカウントダウンイベントに木村氏は同行しなかった。久しぶりに舞台袖ではなく画面を通してパフォーマンスを観察し、感じたことがあった。

木村 俯瞰(ふかん)的にライブを見る機会がそれまであまりなくて、台湾でのライブの様子を見た時に、自分がプロデューサーのグループだけど、2023年、世界にもっと行けるかもと思いました。もちろんもっと頑張らないといけないこともあって、日本の音楽番組に出たり、レコード大賞とか、大きな賞をとったりしたいなと思っています。SNSで曲先行で知っていただけたのはあると思いますが、当たり前にグループ名をみんなが知っているような状態にならないといけないですね。

最初から世界進出に目を向けたプロジェクトだけに、目標は壮大だ。今後は海外での単独公演の構想もあり、2023年も立ち止まらずに進む。

木村 次のシングルの「ハピチョコ」も盛り上げていきたいですし、ライブに来られないお客さんにも知ってもらえるようにライブ映像をダイジェストでSNSに投稿したり、リアルタイムで体感できることは意識してこれからもやっていきたいと思っています。やっぱりFRUITS ZIPPERの1番の良さはライブ。チケットを取れなかった人が出ないくらいの大きなアリーナ会場での公演を実現させることも夢かなと思います。SNSに届くコメントなども大事にしつつ、意見を取り入れて変えていくことも重要だと思っています。

目標はかつて自身も憧れたモーニング娘。らが所属するハロー!プロジェクトのような組織へと成長させることだ。すでに3月には第3弾グループのデビューも予定している。

木村 ハロプロさんみたいに、どのグループも大きくて強いという感じで、アイドルのプロジェクトと言えば「KAWAII LAB.」だよねと言ってもらえるようになりたいですね。そのためには3つ目のグループも大事です。FRUITS ZIPPERのメンバーも最初はきっと戸惑いとかがあったと思いますが、今は後輩メンバーの子たちと会って、一緒に頑張ろうという気持ちになれているかなと。FRUITS ZIPPERももちろん本気で頑張っていくので、それに負けないような加速度でやっていきたいですね。

追い求めるのは、ただの“KAWAII”ではないという。カルチャーの発信地である原宿から、多様性などさまざまな見方も含み、肯定した先にある“NEW KAWAII”。現代ならではの価値観も背負いながら、世界へ飛び出す準備を進めていく。【松尾幸之介】

◆FRUITS ZIPPER 芸能事務所、アソビシステムが手がける「KAWAII LAB.」第2弾グループとして22年4月にデビュー。グループ名は「実を結ぶ」という意味を持つFRUITに「元気を与える」という意味のZIPを組み合わせた。事務所の所在地かつ多様なカルチャーの発信地でもある「原宿から世界へ」をコンセプトに活動中。メンバーは元HKT48月足天音、アイドル活動経験のある櫻井優衣や仲川瑠夏、NHK「天才てれびくん」出演歴のある鎮西寿々歌、ダンス経験豊富な真中まな、年少組の松本かれん、ドイツとハーフの早瀬ノエルと個性派ぞろい。

◆木村ミサ(きむら・みさ) 1990年(平2)12月25日、群馬県出身。モデルとして活躍し、14年末から約3年間、アイドルグループ、むすびズムのリーダーとして活動。お茶や薬膳への関心があり、Hanako.tokyoでウェブ連載「本日の至福、このお茶一杯より。」も持つ。現在は「KAWAII LAB.」の総合プロデューサー。カレー好きタレントとしても知られている。身長156センチ。