14年11月10日に83歳で亡くなった俳優高倉健さんのパートナー、小田貴月さんをインタビューした。健さんの最後の7カ月に及ぶ闘病を書いた著書「高倉健、最後の季節(とき)。」(文芸春秋)について、あれこれと聞いてみた。

本に書いてあったエピソードで、個人的に特に気になったことを問いただしてみた。映画「駅馬車」などで知られ、79年に72歳で亡くなったハリウッドの西部劇の大スター、ジョン・ウェインが、映画「アルフィー」「ハンナとその姉妹」などの英国俳優マイケル・ケイン(90)に「スターでいたかったら、ゆっくり、低い声で話せ」とアドバイスを送ったという件だ。健さんは、70年に日本で公開された映画「燃える戦場」で健さんはケインと共演している。

健さんと言えば、ゆっくり、低い声でしゃべり、そして大スターになった。小田さんは「もともとそういうしゃべりというよりは、多分任侠の作品に携わるようになって相当意識して研究しながらやったようですよ」と教えてくれた。

そして、ゆっくりと低い声について、旅行やホテルの番組の制作に携わった経験のある小田さんは「これはヨーロッパに行くとすごく分かるんですよ。アナウンサーの方が女性も男性も声をかなり落としています。スターだけではなく、言葉を伝えるというジャンルに携わっている方々は、えてして声は低いんです。それが、やっぱり耳に響く魅力的な声っていう印象で、高すぎる声は避けられる傾向があるんです。だから、ゆっくり落ち着いて、アクションなく、ちゃんとしゃべるということが大切なんです」と説明してくれた。

思わず、心の中で「聞いてないよ~!」と素早く甲高い声でダチョウ倶楽部のフレーズを叫んでしまった(笑い)。

確かに子供の頃から三船敏郎さんの「男は黙ってサッポロビール」、健さんの「不器用ですから」というCMのフレーズが、ついて回っていた。そして「男のくせにペラペラしゃべるな」と言われ続けてきた。

だが、1980年代のお笑いブームがやってくると、ビートたけし(76)のマシンガントーク、明石家さんま(67)の軽妙トークと“おしゃべり男”がスターになった。

そして芸能記者としては、たけしの深夜放送「ビートたけしのオールナイトニッポン」(81~90年)で相方を務めた、放送作家高田文夫氏(74)のコラムの聞き書きを若き日に担当して“日本一の聞き上手”の合いの手をもらって、甲高い声でしゃべり続けさせていただいた。

定年を過ぎた今でも、高嶋ひでたけ(81)生島ヒロシ(72)古舘伊知郎(68)上柳昌彦(65)といった、視聴者・聴取者時代から憧れの“おしゃべりおじさん”の生声を取材で聞かせていただいてるのは、至福の至りだ。そして、年を取って、濁った甲高い声でろれつが怪しくなりながらもしゃべり続けている。

61歳になって、いまさらながら「お前は絶対にスターになれない」と、小田さんにダメ押しされたようなものだ。だが、そんな健さんもプライベートは結構、いたずら好きで、高い声で笑っていたという。

スターの話になった時に「うちの会社のスポーツ部には、サッカーのスーパースター本田圭佑に強い記者がいる。でも、そっくりさんのじゅんいちダビッドソンだったら、僕の電話が一番すぐつながる」と自慢したら、小田さんは大爆笑してくれた。低く、ゆっくりは無理だが、楽しく話し続けられるように頑張ろうと、心に誓った。【小谷野俊哉】