武田梨奈(32)が、18日公開の映画「尾かしら付き。」(真田幹也監督)で、女優デビューから16年で初めて“母”を演じる。劇中で大平采佳(18)演じる主人公・那智が大人になってからを演じ、子供を産み、育てることに不安を抱く、佐野岳(31)演じる夫快成に、親になることへの思いを伝える場面を演じた。「30代になり、お母さんの役をやりたいと思っていました。やりたい役が広がった」と女優として1歩、前進できた手応えを口にした。

「尾かしら付き。」は、佐原ミズ氏の同名漫画の映画化作品。小西詠斗(23)演じる宇津見快成が、尻に豚のような“しっぽ”が生えている秘密を知った樋山那智が、そのコンプレックスを個性として真っすぐ受け止め好意を伝える物語。武田と佐野は、大人になって結婚した2人を演じた。

映画の冒頭で、大人になっても“しっぽ”が生えていることで子を持つ不安を拭えない快成の姿に、妊娠を望む那智がショックで家から飛び出す場面が描かれる。母になりたい那智が子供を抱っこする場面での武田の演技は、初めて演じたとは思えないほど自然だ。武田は「いかに子供と仲良くなれるか。お芝居以前の問題で、どれだけ距離を縮めて心を開いてくれるかを意識していました。30代になって、そういう話を身近で聞くことが多い。もちろん憧れもありますし」と30代女性の、等身大の顔をのぞかせた。

空手で黒帯を持ち、全日本チャンピオンになった経歴を持ち、20代は特にアクションを中心に映画へのこだわりが強かった。その当時から「良い年齢の重ね方をしたい」と口にしてきたが「年齢を重ねるにつれて、ようやく自分のことを、ちゃんと理解できるようになってきたなぁと感じてから、すごく生きやすくもなりました。自分の中で、これは、これと決め付けがち柔軟性がない人間だったのが、やりたいことに対しても壁もなく、挑戦できるようになりました」と理想通りに人生を歩んでいる。そのことも、大人の那智を演じた芝居につながった。

冒頭の夫婦のシーンで、那智が「話の続きなんだけどさ」と快成に切り出すセリフから入り、子供を持つことに対する温度差がある夫婦を演じることにも、大きなプレッシャーを感じていたという。そこを乗り越えられ、短時間で夫婦を演じる形を作ることができたのは、佐野の向き合い方のおかげだと感謝する。昨秋、行われた撮影で武田が参加したのは2日間と短く、佐野とも撮影現場が初対面だった。「相手役の方が知り合いだったら、事前に連絡を取っていろいろ話し合いができたんですが、衣装合わせも別々。どこまで踏み込んで相談して良いんだろう?」と戸惑ったという。

すると、佐野の方から「今から敬語やめて、那智と快成の距離感でしゃべろう」と言ってきたことで、歩み寄ることができたという。台本に書かれていない冒頭のせりふの、前の段階を2人で考え、どういう会話だったのかを、互いに想像しながらエチュード(即興劇)を、空き時間の控室などで繰り返した。そして「今日、ご飯、どうする?」など、たわいもない掛け合いをする中で「実は同級生の~ちゃんが子供生まれたんだよね」と語りかけた時、快成を演じていた佐野の表情がガラッと変わったことが、役の上での関係性を構築する、大きな転換点となったという。「(佐野が)暗い顔をしたんですよ。やっぱり快成は今、こういうの(妊娠、出産)を避けたいんだなと、2人の絶妙な距離感が生まれた時に、何となく2人の関係性が見えた、読めた。佐野さんは、すごく真っすぐに向き合ってくださって助けられたのでスッと入れました」と感謝した。

加えて、中学時代の快成と那智を演じた、小西と樋山の撮影シーンを見学し、大人になった2人の役を作っていった。その裏には、中学から大人という、成長する過程で面影が残る役どころを、それぞれの年代で違う俳優が演じることに対するプレッシャーがあった。

「(中学時代と大人の快成と那智を演じた俳優は)顔も違う。同じ人を演じるのは、例えば3、4歳の頃から大人を演じるんだったら成立する可能性は大きく広がると思うんですけど、中学と20代後半から30代は、面影は絶対、残っているじゃないですか? そこに、いかに近づけるか…。現場に行かせてもらって、中学時代の2人のシーンを拝見してヒントを得ながら演じました。撮影が2日間だけ、しかも関係性が完全に作られた状態でお芝居するのは、ものすごく難易度が高い。想像力だけでは収まりきれないし想像力だけで演じちゃいけないな、という責任感もより強かった」

今後は、国内外で映画への出演の話が進んでいる上、香港では12月に出演したドラマ「打天下2」の放送も始まるという。そうして、仕事のことを語り続ける武田に、自らの結婚について聞いてみた。「したいです」と即答した一方で「今、本当にやりたいことがあふれているので、誰かのことを考える余裕がない」とも口にした。「理想は35歳くらいで、自分のことを落ち着かせて…結婚は、いつかしたいですね。10年後も、同じこと言っているかも知れないですね」と笑みを浮かべた。【村上幸将】

◆武田梨奈(たけだ・りな)1991年(平3)6月15日、神奈川県生まれ。10歳で空手を始め、琉球少林流空手道月心会黒帯を取得し全日本チャンピオン。07年に映画「こわい童謡」で女優デビュー。09年の映画「ハイキック・ガール!」で映画初主演。昨年12月に吉村界人とともに企画・主演を務めた映画「ジャパニーズ スタイル」が公開。BSテレ東で主演ドラマ「ワカコ酒 Season7」(月曜深夜0時)が放送中。