女優早瀬久美(71)がデビュー58年目にして、劇団夜想会の「祖国への挽歌~日系人マフィア モンタナジョーの伝説!!~」(東京・俳優座劇場、9月12~17日)で本格舞台デビューすることが19日、分かった。1966年(昭41)に映画「紀ノ川」で女優デビュー。71年の日本テレビ系「おれは男だ!」のヒロインで大ブレークした早瀬は、日刊スポーツの取材に応じ“いまさらながら”の舞台挑戦について熱く語った。【小谷野俊哉】

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「祖国の-」は、シカゴマフィアの大幹部となった、日系人モンタナジョー(松村雄基=59)の生きざまを描く。第2次世界大戦中にアメリカ軍の日系人部隊に志願して、ヨーロッパ戦線で戦った。戦後の日系人差別に反発して、マフィアに身を投じた波瀾(はらん)万丈の人生で、最後の妻となるのが早瀬演じる北村礼子だ。他に原田大二郎(79)大鶴義丹(55)石村とも子(65)ら。

早瀬は「舞台の話なんて来ないだろうと思っていたんですけど、推薦してくださる方がいたんです。演歌歌手の舞台公演に町娘の格好で主人公の妹役で少し出たことはあります。お客さんの前で本格的にお芝居をする、いわゆる舞台出演は初めてです」と意気込んでいる。

映画、ドラマには数多く出演したが、舞台では目の前に観客がいる。「舞台は客席の反応がすぐ伝わってきて、すごく楽しい思い出があります。でも、今でも出番を間違える夢を見るんです。ずっと舞台に出っぱなしじゃなく、ひと言せりふを言って引っ込む。その引っ込んだ時に、次のデバイのタイミングを間違えちゃう夢を、今でも見るんです。なのに、本格的な舞台のオファーを受けてしまうなんて。今回は何回も出入りがあるわけじゃないのは、救いですけどね」。

稽古が始まり、共演者との芝居作りが始まった。「松村さんとは初共演。寡黙でクールなイメージですね。義丹さんと大二郎さんは、お目にかかったことあるけど覚えてるかなというぐらいです。大二郎さんとはドラマの中で結婚をしたような気がするんですけど、その記憶もうろ覚え。逆に新鮮です」と笑っている。

71年から72年にかけて放送された「おれは男だ!」で、森田健作(73)が演じた高校の剣道部主将・小林弘二と、淡い恋心を抱きながらも反発し合うヒロインのバトン部主将・吉川操役を演じて大ブレーク。森田の「吉川く~ん」というせりふは、流行語にもなった。

80年に結婚、83年に引退して米国サンフランシスコに移住した。「89年にサンフランシスコ地震に遭遇したこともあって、90年に帰国して陶芸教室を開きました。80年代はずっとアメリカだから、英語は一応ペラペラ。でもね、娘がアメリカ生まれでアメリカ国籍も持ってるんですけど、両親が日本語だと英語の覚え方が遅くなっちゃうからって、幼稚園の時に『家の中でも英語をしゃべってください』って注意されてました。まだ英語をしゃべれるけど、どんどん忘れてます(笑い)。だから、たまに英語のテレビを見て、意外と分かるんだとびっくりしています」。

02年に芸能界に復帰。女優業は、コロナ前の18年に出たTBS系「十津川警部シリーズ」以来5年ぶりだ。「お芝居をする女優のお仕事は、本当に久しぶり。でも、来年4月いっぱいで閉館する、伝統の俳優座劇場に初めて出演できるのはうれしいですね。六本木の真ん中にあって便が良くて、ロビーに飲み物を注文できる所があるから、よく待ち合わせに利用したりしました。縁がないと思ってたけど、最後に出演できるのは幸せですね」。

女優業以外にも、17年から八王子FMで「早瀬久美のあの日をもう一度」のパーソナリティーを務める。「ラジオとかクイズ番組とかは、出たとこ勝負というか臨機応援にやればいいから、楽しくできてます。でも、今回の舞台で自分は女優なんだということを再認識して、張り切っています。ある意味では、ずっとアメリカに行ってたり、ブランクがあるから、また今、できてるのかな。アメリカ行ったり、帰って来たりした時は、芸能界はもう縁のない存在だと思ってたんですけどね。そこで声かけていただくと、こんな楽しいことやってたんだと気がついて。今は、何をやっても楽しくやらせていただいています」。

「おれは男だ!」の相手役、森田健作とは顔を合わせることが多い。「しょっちゅうではないですけど、森田さんが衆議院議員時代に『おれは男だ会』というのを作っていて、ゲストとして呼ばれるんです。国会議員の先生方って、ものすごくいろんなことを知ってらっしゃるんですけど、上から話すんじゃなくて私が言ったことにもちゃんと答えてくれる。くれるので。それが楽しくて、声かけていただいたらできる限り行くようにしています」

出演するだけでなく、自身でイベントをプロデュースすることも始めた。「自分で主宰して、ファンの方たちを集めてパーティーもやってるんですよ。その企画を考えるのが楽しみ。今回は、このお芝居をやるから、次のパーティーでは芝居の部分みたいなものも入れてもいいかなと思っています。自分の好きなように、偉そうなことを言ってプロデュースできるっていうのは、こんな楽しいことなのかなと思って(笑い)。あと最近、歌手活動を始めたんですよ。仲のいい林寛子ちゃんから声をかけられて、彼女の経営するお店の『ラブリー寛寛』のイベントで一緒に歌ったりしています。寛子ちゃんはすごくうまくて、私は下手なんですけどね。みんな喜んでくれるから、すごく楽しいです」。

人生100年時代。休んでいた時もロスタイム、失われた時間ではない。アディショナルタイム、追加された時を楽しんでいる。

◆早瀬久美(はやせ・くみ)1951年(昭26)12月25日、神戸市生まれ。66年、ジュニアフラワーコンテストに優勝して芸能界へ。同年、映画「紀ノ川」で女優デビュー。68年、フジテレビ「お嫁さん」で初主演。71年、日本テレビ「おれは男だ!」で、主演森田健作が早瀬演じるヒロイン吉川操を呼ぶ「吉川く~ん」のフレーズで人気者に。80年に結婚して83年に引退して渡米、サンフランシスコ移住。90年(平2)に帰国。02年に芸能界復帰。08年離婚。09年にテレビ東京系「サギ師リリ子」で31年振りに連続ドラマ出演。17年から八王子FM「早瀬久美のあの日をもう一度」(火曜午後10時、再放送水曜午後2時)のパーソナリティー。160センチ。血液型O。

◆おれは男だ! 71年2月21日~72年2月13日、日本テレビ系の日曜午後8時で全43話。青葉高校の剣道部主将の正義感あふれる蛮カラの小林弘二(森田健作)と、バトン部主将で優等生の吉川操(早瀬)が互いに惹かれ合いながらも対立する青春ラブストーリー。小林の祖父を名優笠智衆が演じた。原作は津雲なつみの同名漫画。森田が歌った主題歌「さらば涙と言おう」も大ヒット。最高視聴率は21・2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。日本テレビの日曜午後8時枠の連続ドラマは森田健作以降も、青春路線で村野武範、中村雅俊、勝野洋らがブレークした。