日本映画が米アカデミー賞で金字塔を打ち立てた。「ゴジラ-1.0」が、アジア初の視覚効果賞を受賞した。山崎貴監督(59)は米ロサンゼルスのドルビー・シアターの檀上で、金色のゴジラのフィギュアを左手、初めて獲得したオスカー像を右手に歓喜した。また宮崎駿監督(83)が「君たちはどう生きるか」で、03年「千と千尋の神隠し」以来21年ぶり2度目の長編アニメーション映画賞を受賞。邦画のダブル受賞は09年以来15年ぶり3度目だが、長編の2本同時受賞は、96回の歴史で初めてとなった。【村上幸将、千歳香奈子通信員】
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「Godzilla Minus One」とコールされた瞬間、山崎監督、渋谷紀世子VFXディレクター、高橋正紀3DCGディレクター、エフェクトアーティスト、コンポジターの野島達司氏は、両手を天に突き上げた。邦画のダブル受賞は、55年「地獄門」の名誉賞と和田三造氏の衣装デザイン賞の2冠、09年の「おくりびと」の外国語映画賞と「つみきのいえ」の短編アニメーション映画賞以来3度目だが、長編の2本同時受賞は同賞96回の歴史で初の快挙だった。
山崎監督の右手には、胸に黒のちょうネクタイを着けた全身金色の“正装”のゴジラフィギュアが握られていた。さらに4人はゴジラの足を模した“ゴジラシューズ”を履いて入場。米ピープル誌も「史上最もワイルドな靴を履いてオスカーに登場」と反応するなど、全米をくぎ付けにした。
米各メディアは「製作費1500万ドル(約21億円)の予算で、35人のVFX(視覚効果)スタッフで作られた低予算映画が、ハリウッド大作を打ち破った」などと、受賞を驚きを持って報じた。そうした米国内の世評を意識してか、山崎は英語で挑んだスピーチで、米俳優シルベスター・スタローン(77)が脚本、主演を務め、アンダードッグがヒーローになったボクシング映画「ロッキー」を引き合いに熱く語った。「ノミネートの瞬間、私たちは(主人公)ロッキー・バルボアでした。強大なライバルの前でリングに立たせてもらえたことが既に奇跡。しかし私たちは今、ここにいます。遠く離れた所でVFXを志すみんな、ハリウッドが君たちにも挑戦権がある事を証明してくれたよ!」と拳を握り締めた。
◆ゴジラ-1.0 敷島浩一(神木隆之介)は零戦の操縦士。特攻を回避した島がゴジラに襲われながらも生き残る。帰還すると、他人に赤ん坊を託され身寄りのない典子(浜辺美波)が自宅に押しかけ共に生きることに。そこでゴジラが東京に上陸し、討伐作戦に参加する。国内では興行収入60億1000万円、動員392万人を突破し、23年公開の実写映画で1位。北米2308館でも公開され、89年公開の「子猫物語」が記録した興収1329万ドルを34年ぶりに塗り替えた。
「THE BOY AND HERON」の名が読み上げられた檀上に、宮崎監督も鈴木敏夫プロデューサー(75)もいなかった。米メディアは部門最高齢&21年ぶり受賞の快挙ながら、欠席したことを異例と報じたが、ドルビー・シアターから約8800キロ離れた都内のスタジオジブリは歓喜の涙でぬれた。祈りながら生放送を見つめたスタッフは午前8時38分に受賞が決まると「やった!」「すごい!!」と歓喜し、うれし涙を手で拭い握手した。
鈴木プロデューサーは会見で「『日本男児として、うれしい顔は見せちゃいけない』と言いつつ喜びはこぼれた。普通に『良かったです』と」と、アトリエに滞在する宮崎監督との電話のやりとりを明かした。「おめでとうございます」と祝福すると「お互いさまです」と返ってきたという。
前回の受賞から21年…その間、配信が全盛になるなどエンターテインメントの状況から世界の情勢は変わった。13年の前作「風立ちぬ」で受賞を逃した宮崎監督も、同9月に引退を宣言。その後、日本の長編アニメ映画は4本、ノミネートされたが受賞は逃した。
歴史の扉を再びジブリがこじ開けた。鈴木プロデューサーは「『風立ちぬ』から10年…新作がないだろうと思ったら出てきたことが大きかった」と同監督の衰えぬ創作力を称賛。20年以降、海外で始めた配信が「米国がすごかった」と反響が大きかったことも後押しになったとした。その上で「今、何故にこの題材で作るか…要するに時代性。80代を迎えても、それを忘れない。なぜ今、この作品が必要なのか考える。今回も、それをやってのけたんだと思います」と分析した。
◆君たちはどう生きるか 主人公・牧眞人は戦火で入院中の母を失う。東京を離れ疎開先で出迎えにきた母そっくりの女性ナツコが、父との間の子を身ごもっており、複雑な心情を抱えながら新しい生活へ。ある日目覚めると、家の近所に建つ古い塔に入り込んでいく。主演は声優デビューとなった山時聡真。ほか木村拓哉、菅田将暉、柴咲コウら。主題歌は米津玄師の「地球儀」。昨年7月の公開まで事前情報解禁をしなかったことでも話題となった。