原田眞人監督(74)が6日、東京・丸の内ピカデリーで行われた米映画「オッペンハイマー」(クリストファー・ノーラン監督)公開記念トークイベントで、同作に触発され、原爆投下後の広島を描く映画を作る決意を新たにした。コロナ禍の最中に、既に脚本を書き上げているという。

「オッペンハイマー」は、広島と長崎に投下された原子爆弾の開発において指導者的な役割を果たし「原爆の父」と言われる、米国の物理学者ロバート・オッペンハイマーの人生、実話を描いた。オッペンハイマーの苦悩を通し、反戦反核を描いた伝記映画で、23年7月21日に全米公開された。世界の運命を握ると同時に、世界を破滅する危機に直面するという矛盾を抱えた1人の男の知られざる人生を、IMAX撮影による没入感とともに描き出し、3月の米アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、撮影賞、編集賞、作曲賞の最多7部門を受賞した。

原田監督は「僕自身は、原爆開発、投下、被害に関しては、3部作にすべきだと思っています」と口にした。そして「今回(原爆を)作った側のオッペンハイマーで1つ、あとは広島なり長崎の惨状…今のVFXの技術なら当時の地獄絵を再現できる。ジェームズ・キャメロンも10年前から『地獄』というタイトルでやりたがっている。もう1つはポツダム宣言」と具体的に続けた。

原田監督自身、15年の映画「日本のいちばん長い日」を手がけているが「原爆を投下した1カットしか入れられなかった、広島の市民に『原爆を描いてくれないんですか?』と言われた」という。その上で「コロナの最中、あまりにやることがなかったで、資料を読み込んで、脚本を書いた。広島の原爆投下を中心として1カ月の話」と、原爆を投下された広島を描いた映画の脚本ができていると明かした。

原田監督は、「オッペンハイマー」が日本で3月29日に公開するにあたり「日本の映画人としては、この大傑作に応ずる形で、破壊の雨を浴びた広島・長崎の人々の姿を克明に描く義務を、震えが来るほど強く感じた」とコメントしていた。その発言を踏まえ「『オッペンハイマー』を見る前に、中途半端に広島に踏み込んでくれなければいいなと思った。見て、広島に対する罪の意識は、しっかり描かれている」などと語った。

既に出来上がっている、原爆投下後の広島を描いた脚本を元にした映画の製作に動くかと聞かれると「やりたいですけど、日本のお金だけではできないんで」と苦笑した。「広島で被爆したのは日本人だけでなくて、米軍捕虜、留学生、スペイン人の神父もいた。そういう人たちをタペストリーとして描く映画は30、40億かかる」と製作費がかかるとした上で「『オッペンハイマー』が道を開いてくれた。いつか、この映画を作るぞ、と」と意気込んだ。