北村一輝(56)が22日、東京・テアトル新宿で行われた映画「たしかにあった幻」(2月6日公開)完成披露上映会に登壇した。
「人生において大切にしているもの」と題したフリップトークの際、フリップに「津原さんの言葉」と書いた。河瀨直美監督(56)から「一輝君が書いたのが1番、分からん」と突っ込まれると、俳優としてスポットライトが当たる前に目をかけてくれた、恩人との思い出を明かした。
北村は、フリップに書いた文言について聞かれると「仕事がない時、いつも励ましてくれた。何度もくじけそうになったり、腐る時、あるじゃないですか? 『志を大きく…小さく、まとまるなよ』と。この人がいないと…今はいない」と、既にこの世にはいない津原さんに感謝。「何も残ってなく、自分の頭にしかないんですけど…」と続けると、場内から温かい拍手が巻き起こった。
「たしかにあった幻」は、小児臓器移植実施施設が物語の舞台。フランスからやってきたレシピエント移植コーディネーターのコリーが、脳死ドナーの家族や臓器提供を待つ少年少女と家族と関わりながら、命の尊さと向き合う。同時に突然、失踪した恋人の迅の行方を追う姿を通して愛と喪失、希望を描く。コリーをルクセンブルクの俳優ビッキー・クリープス(42)迅を寛一郎(29)が演じた。弁当屋を営み、移植を待つ子供や家族に弁当を届けつつも、最愛の息子を失って一周忌でも罪悪感にさいなまれる、めぐみを尾野真千子(44)、北村は弁当屋のめぐみを手伝う元捜査一課の刑事の亮二を演じた。
北村は、05年「主人公は君だ!」や、09年の「狛-Koma」と河瀬監督の短編には出演してきたが「長編は初めてです」と明かした。その上で「身をもって経験して大変だなと。ひどいなと」と撮影を振り返った。同監督から「(取材陣に)そこだけ取って、書かれるからなあ」とボヤかれると「本物を撮るには、そうなる」と即答した。
河瀨組には、撮影前にロケ地で2週間、俳優陣に生活させるなど、役を生きるために必要なこととして行う演出“役積み”がある。北村は「普通は現場に行って、お弁当屋をやる(演じる)。(河瀨組は)数日前に入って、お弁当屋さんに実際に会います」と、通常の作品と河瀬組の撮影は違うと説明した。
その上で「僕の役は元刑事。今までの経緯などを長い間、聞く。本当に、ただの人間が、移植を待つ子供達に運ぶ気持ちを、シンプルに話した」と取材した内容を紹介。「ただただ、それを続け子供達も何年も待っている。(家族が)ベッドのところで何年も寝ているのを見て、上っ面で演じても通じないと思った。普通の人間としてお話しして、お芝居を見せると言うより、こういう現実があるというのを伝える、1人の人間として現場に入れたら良いなと」と続けた。
完成した映画本編を見た感想を聞かれると「この映画ができた意味を考えて欲しい」と観客に呼びかけた。河瀨監督から「一輝君、泣くシーンじゃないところで泣いた」と明かされると「こういう世界があって(撮影に)協力してもらっているんだけど、大変ですね、とか」と、感情が揺れ動いた撮影を振り返った。
同作は大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーなどを務めた河瀨監督にとって、22年の東京五輪公式記録映画「東京2020 SIDE:A、B」以来4年ぶりの新作で、脚本も手がけた。オリジナル脚本による劇映画は、フランスのジュリエット・ビノシュが永瀬正敏とダブル主演した18年「Vision」以来8年ぶり。8月にスイスで開催された、ロカルノ映画祭のインターナショナル・コンペティション部門に選出された。この日は、心臓移植を待つ少年のドナーとなる、脳死した少年の父親を演じた永瀬正敏(59)も登壇した。
◆「たしかにあった幻」 国際人材交流事業の一環で日本へやってきたフランス人女性コリー(ビッキー・クリープス)は、臓器の移植を必要とする人と関わるレシピエント移植コーディネーターとして、日本で数少ない小児心臓移植実施施設の病院でサポートスタッフとして働き始める。移植を待つ重症の小児を多く受け持つ病院では、限られた人員で必死に日々の業務をこなし、切実な状況にある患者やその家族と向き合っていた。コリーは厳しい環境の中でも、患者の家族をはじめ従事する医師や看護師、コーディネーター、保育士や院内学級の先生らと触れ合ううちに、移植医療をめぐる人々の輪の温かさを再認識していく。そんなある日、屋久島で出会い、心を支えてくれていた恋人の迅(寛一郎)が同居していた家から、何の前触れもなく消えてしまう。



