英語の「I LOVE YOU」を、「月がきれいですね」と訳したのは夏目漱石らしい。

 それまでの、明治の日本には、とりわけ異性に対する、「愛する」という直裁な表現がなかったらしい。東京帝国大学を卒業、文部省の命を受け、英国に留学。それこそ英語に堪能であった漱石が、「I LOVE YOU」にふさわしい日本語に戸惑ったとは、興味深い。


 「月がきれいですね。それで通じますから…」というのは、あまりに叙情的だが、日本的な“名訳”あろう。


 そんなことを思い出したのも毎年9~10月、みなかみ町観光協会が主催する「谷川岳天神平『星の鑑賞会』」(別掲)に興味が湧き、一足先に出かけてみたくなったからである。


 漱石が見上げた「月」はもちろんだが、日本百名山・谷川岳をはじめとする高い山々に囲まれた天神平周辺は、市街地の光が遮られ、天体観測に最適な環境となる。


 訪れたのは8月下旬。太陰太陽暦にもとづく七夕、「伝統的七夕」(と呼ぶ。今年は8月9日だった)も過ぎ、夏ならではの、ペルセウス座流星群もピークを越えたようである。


 下見を兼ね、昼すぎに「谷川岳ロープェイ」で観測地点へ向かう。年老いた脚? には有難い限りで標高746メートルの土合口駅から1319メートルの天神平駅まで15分で手軽に到達できる。もっともさすがにこの高度、夏とはいえ18度の冷気が肌を刺激する。


 あいにくの曇天で、谷川岳(オキの耳1977メートル、トマの耳1963メートル)は雲海の中、遙か遠方に朝日岳(1945メートル)が雲間に頂を覗かせた。

 鑑賞会予定地は3つのエリアに分けられ、星空鑑賞、望遠鏡コーナーの他、寝転んで星空を眺める自由鑑賞広場もある。すでに高山植物の季節は過ぎつつあるが、9月半ばからは紅葉も始まる。天空に加え、周辺は秋の瞬きを増す。


 小雨模様の天候には勝てず、山を下り、地元の案内で、水上温泉の繁華街へ滑り込んだ。映画のセットのような露地あたりに、小さな居酒屋「安兵衛」。7人も座れば満席のカウンターに、酒は地元の銘酒「譽國光」。


 酔って、居酒屋から転げ出た。酔眼で見上げる夜空。


 ふと、坂本九の、アバタ顔が浮かんできた。


 「上を向いて歩こう」。そして「見上げてごらん 夜の星を」と歌い出し、「ささやかな幸せを 祈っている」と口ずさむのである。(画像は、みなかみ町観光協会提供)


★「谷川岳天神平『星の鑑賞会』」 【9月】毎週金土日曜日と9月22日(木祝)、【10月】毎週土曜日と10月2、9日の全21回開催される。参加費は大人2500円、小学生1300円(未就学児無料・別途駐車場料金)。ボランティアガイドの星座案内を受けれるほか望遠鏡コーナーも用意。

★問い合わせは星の鑑賞会特別電話・0278・62・0451(受付時間 午前10時~午後3時)。

★詳細はHP「谷川岳天神平『星の鑑賞会』」(http://www.enjoy-minakami.jp)、「みなかみ町観光協会」で検索。星の鑑賞が期待できないときは、中止となる。◆今年は予約制を廃止したことから、気軽に参加できる。町内の提携宿泊施設に宿泊する場合、割引制度がある。

★水上(みなかみ)までのアクセス 【車】関越自動車道利用 東京方面から東京練馬IC~水上IC(約1時間40分)。新潟方面から 新潟西IC~水上IC(約1時間50分)【電車】上越新幹線利用 東京駅~上毛高原駅(約70分) 新潟駅~上毛高原駅(約60分)

★ 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の日本国内委員会は12日、人と自然の共生を図る生物圏保存地域(エコパーク)に、群馬、新潟両県の利根川源流域「みなかみ」を推薦することを決めた。 9月に推薦書を提出、登録の可否は来年開催されるユネスコの会合で審査される。

★月夜野のお月見「指月会」 大峰山 嶽林寺(みなかみ町月夜野1697)で9月15日午後5時半から開催。参加費2000円。境内が約1000個のキャンドルで彩られ、月と神秘的な自然の火の灯りに囲まれながら、お呈茶会、本堂での雅楽、境内での篠笛の演奏会などが楽しめる。販売及び予約はみなかみ町観光協会まで。電話0278・62・0401。


【文化社会部編集委員・石井秀一】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「新聞に載らない内緒話」 (2016年8月)