安倍晋三首相は31日、新型コロナウイルス感染症対策本部会合で、入国申請前14日以内に中国湖北省に滞在歴があるすべての外国人の入国を拒否すると発表した。

感染拡大を受けた「強硬措置」だが、急速に進む事態に政府の対応は後手後手で、危機管理が問われる事態となっている。一方、千葉県在住の20代女性の感染が新たに判明。国内の患者確認は13例目。運転手や女性ガイドが感染した中国人バスツアーに同乗していた。世界保健機関(WHO)は同ウイルスについて「緊急事態」を宣言。深刻さは増すばかりだ。

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新型コロナウイルス対策で、野党から「後手後手」と批判されていた安倍政権の対応が、一変した。水際対策の厳格化が求められる中、首相は政府対策本部会合で、中国湖北省に滞在歴がある外国人の日本入国を、拒否すると表明した。フィリピンでは武漢からの旅行客の強制送還に踏み切ったが、地域を特定した入国制限は、日本では極めて異例だ。2月1日午前0時、効力が発生した。

当面の措置となる。首相は「前例にとらわれず先手、先手の対応を進めてほしい」と、呼びかけた。

ただ、これまでの同ウイルス対策で政権が先手を打っていたとは言い難い。同ウイルスによる肺炎を感染症法の「指定感染症」とする政令の前倒し施行が象徴的だ。WHOの「緊急事態宣言」に伴い31日、当初の2月7日を2月1日に変更。指定感染症になれば患者を強制入院させることも可能で、野党は前倒しを求めていた。政府は周知期間が必要と応じなかったが、WHOの発表で「事態が変わった」(関係者)。見通しの甘さが指摘されている。

後手後手は、これにとどまらない。武漢からのチャーター機搭乗者に約8万円を請求する方針だったが、与党からも異論が続出。自民党の二階俊博幹事長が菅義偉官房長官に翻意を促し、首相がこの日の衆院予算委員会で政府が負担すると表明した。そのチャーター機第1便で帰国した人の滞在先「勝浦ホテル三日月」では一部で、相部屋が発生。加藤勝信厚労相は「不備があったのはそのとおりだ」と、釈明に追われた。

現地の日本人に届けようと機内に積み込んだレトルトカレーなどの食品が、手続きの理由で中国側に認められず、日本に持ち帰ったことも判明。事前の確認が間に合わなかったようだ。

情報も混乱している。第3便で帰国した日本人の一時滞在先をめぐり、発表が二転三転。菅官房長官が会見で茨城県の施設に言及した約1時間後、内閣官房が別の場所を発表。その1時間後、最終的に国立保健医療科学院(埼玉県和光市)と税関研修所(千葉県柏市)へ再訂正された。首相は「情勢の変化を踏まえて、やるべき対策をちゅうちょなく実行する」としているが、自らが再三批判してきた旧民主党政権同様、危機管理能力が試される事態となっている。【中山知子】