映画「宮本から君へ」(真利子哲也監督)の製作会社スターサンズが、助成金交付内定後に下された不交付決定の行政処分の取り消しを求めて、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)を訴えた裁判の第1回口頭弁論が25日、東京地裁で開かれた。原告側は意見陳述を行い、被告側は代理人が欠席した。

第1回口頭弁論後、原告側は会見を開いた。スターサンズの河村光庸エグゼクティブプロデューサーは、今回の裁判を「映画における表現の自由に関する、日本で初めての訴訟だと思う」と位置付けた。その上で「憲法は多くの官僚、政治家を規制し、制約するものであって、決して国民を制約するものではなく、そういう憲法に対して、あまりにも多くの人々が遠い存在になっている。文化、映画の問題を持って、引き寄せていく大切な裁判、この問題を持って、憲法という問題に食い込んでいくという裁判ではないか」と訴えた。

「宮本から君へ」は、90年に漫画誌「モーニング」で連載された新井英樹氏の漫画が原作。文具メーカー「マルキタ」の営業マン宮本浩の愚直なまでの生きざまを描き、池松壮亮主演で18年にテレビ東京系で連続ドラマ化(全12話)され、ドラマを経て映画化され、19年9月27日に公開された。

映画は19年3月12日に本編が完成したが、同日に出演者のピエール瀧がコカインを使用したとして麻薬取締法違反容疑で逮捕された。製作側には、同29日に芸文振から助成金交付内定の通知が送られていたが、同4月24日の試写後、芸文振関係者から瀧の出演シーンの編集ないし再撮の予定を問われ、製作側はその意思がないと返答した。

19年6月18日に、瀧が懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡されると、同28日に芸文振から製作側に不交付決定が口答で伝えられた。そして、同7月10日付で「公益性の観点から適当ではないため」との理由で不交付決定通知書が送られた。瀧は「宮本から君へ」で、宮本の前に立ちはだかる真淵拓馬(一ノ瀬ワタル)の父、敬三を演じているが、瀧の出演シーンは本編129分中11分で出演率は9%に満たない。

原告側は意見陳述の中で、「公益性の観点から適当ではないため」との理由による芸文振の不交付決定を、行政裁量の逸脱、乱用だと主張。その上で公文書の改ざん、検事の定年延長、自衛隊法に基づかない自衛隊の派遣など、昨今、政府に対する批判が集中した事案を列挙し「立憲主義のみならず、法治主義を問う訴訟。日本が法治国家として踏みとどまることを裁判所に問う裁判」と訴えた。

弁護団の伊藤真弁護士は会見で「表現の不自由というムード、空気感がまん延すると政治を批判する空気も萎縮しがちで危険。この国の民主主義のありようから問題提起し、訴えていかなければならない」と声を大にした。

河村氏は、都内の朝日ホールで4月中旬にシンポジウムを開催することを明らかにし「この問題の論議を深く、広くすることを皆さんにお願いしたい。多くの国民論議になることを望みます」と期待した。第2回口頭弁論は5月12日に開かれる。【村上幸将】