東京・日本橋の老舗料理店で腕を振るう料理人たちが、新型コロナウイルス感染拡大防止へ最前線となる病院で働く医療従事者に、毎日、栄養満点の1000円ランチ弁当を届けている。4月27日に始まった取り組みで、「大江戸」「いけ増」「たいめいけん」「伊勢重」など19店が登録。輪番制で、1日に3店がそれぞれ50食ずつをこしらえ、計150食を都内の総合病院に配送している。

きっかけは、非常事態宣言が東京など7都府県に発令された4月7日以降、各店がテークアウト用に開発した、1000円前後の弁当。昼間に日本橋を歩いていた病院関係者から「治療に当たる仲間に食べさせたい」と、注文が寄せられた。日本橋には1959年(昭34)4月に発足した旦那衆の会、「三四四(みよし)会」があり、地元で団結して活動している。医療従事者の切実な要望を受けて各店が動き、弁当提供を担当する19店はすぐに決定。3店分の150食をまとめて病院に届けるシフトも、すぐ整えた。

大型連休明けの8日と11日に担当するのは、創業82年の和食「ゆかり」。三代目で、02年に「料理の鉄人」の特別番組で総合優勝した野永喜三夫店主(48)が腕を振るう。提供を予定するのは豚丼で、築地場外の精肉店「近江屋牛肉店」が原価で材料提供する。

使われる豚肉は「トウキョウX(エックス)」。東京産の最高級畜産豚だ。近江屋の寺出昌弘社長(56)は「素材の築地の威信にかけて協力する。医療関係者に元気になっていただきたい」と、話した。

豚丼は、豚肉をゴボウ、玉ネギとじっくり煮込んで、かぼすポン酢で調整し、清涼感ある仕上がりに。ご飯は磯沼ミルクファーム(八王子市)の無農薬米「キヌヒカリ」を、歯ごたえよく炊きあげた。「トウキョウX(豚)さっぱり丼」と名付けた野永店主は「すべて東京産でこだわった。たっぷりのかんきつ系で豚丼なのにさわやか。食べてリフレッシュできる。冷めてもおいしくいただけるように工夫した。これでコロナに立ち向かってください」と、エールを送った。

野永店主は、日本橋でのれんを守るだけではなく、要請があれば現地にすぐ飛んでいく。大手企業の社内食堂でのメニュー作りへの依頼も多く、その中で大人気なのが「豚のさっぱり丼」なのだ。「ひと口食べただけで口の中がすっきりする」「消化もよくて体の調子がいい」などの感想が寄せられたという。

野永店主は「医療従事者のみなさまに無理はしてほしくないけれど、踏ん張りどころだと思う。食べることで元気になってもらえるなら、日本橋の料理人の出番はここしかない」。メニューを考えた時、すぐに浮かんだのが、この豚のさっぱり丼。ポン酢は、徳島から送ってもらったかぼす果汁を使う予定で「疲労回復にも効果があると思う」と、太鼓判を押した。

「私は料理しかできない。おいしい豚肉をお世話になり、配送する運搬車と人材もすぐに決まった。これが日本橋の底力。チーム日本橋なんです」(野永店主)。新型コロナウイルスとの闘いは長期化が予想されるが、得意分野を生かしながらチームで立ち向かう。ウイルスとの闘いのヒントにもなるかもしれない。

活動は連休明けの7日に再開する。当初、11日までの予定だったが、緊急事態宣言の新たな延長期限が正式に決まり次第、今後の対応を協議する。【寺沢卓】