ロシアとウクライナの停戦交渉に仲介役として関与しているロシアの新興財閥オリガルヒの1人、ロマン・アブラモビッチ氏と、ウクライナ交渉団の少なくとも2人に今月初め、毒物による中毒ともみられる症状が出ていたとの報道が29日までに相次いだ。英調査報道サイトのベリングキャット、米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版など欧米メディアが報じた。アブラモビッチ氏は、29日にトルコのイスタンブールで再開した停戦交渉の場にも姿をみせた。

報道によると、アブラモビッチ氏はロシアの正式な交渉団メンバーではないが、ウクライナ側の要請もあり、今月3日に首都キエフで行われた非公式協議にも参加。終了後から翌日にかけ、目の充血や痛み、顔や手の皮膚がむけてくるなど、中毒を疑わせる症状を訴えた。その後回復したという。3人は症状が出る前の数時間で口にしたのは、チョコレートと水だけだったとされる。

専門家は何らかの化学物質が使われた可能性が高いとみているという。関係者は、交渉を妨害しようとするロシアの強硬派がかかわったのではないかと疑っている。ロシアではこれまでにも、反体制指導者ナワリヌイ氏の毒殺未遂など毒物がらみの事件が起きている。ナワリヌイ氏の事件も調査したベリングキャットは、原因特定は難しいとし「殺害の意図はなく、警告だった」との見方を示した。

一方で、米当局者は、毒物などではなく環境が要因ではないかとの見方を示したとの情報もある。ロシアのペスコフ大統領報道官は29日、「情報戦の一部だ」と否定した。

プーチン大統領に近い富豪のアブラモビッチ氏は、英プレミアリーグ、チェルシーのオーナーとして知られ、今回の侵攻で制裁対象となっている。